日本で猫のTNRを実施する際に、避妊去勢手術を実施した証として、オスは右耳、メスは左耳にV字型の切り込みを入れるのが一般的です。避妊去勢手術済の猫を再捕獲しないように、耳をカットして目印にすること自体は万国共通ですが、海外では若干作法が異なるようです。
ASV(シェルター獣医師会)の” Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters”にはこう記載されています。
Removal of the tip of one of the ears (or pinna) is the accepted global standard for marking or identifying a neutered free-roaming or feral cat (Griffin 2001; Looney 2008).
片方の耳(または耳介)の先端の除去は、不妊化された自由生活猫または野良猫の目印として、または識別するために受け入れられている世界標準です(Griffin 2001; Looney 2008)。(P38)
海外のTNRに関する資料を見ると、左耳の先端を切り落とされた野良猫の写真をよく見かけます。International Cat Careのホームページ(https://icatcare.org/unowned-cats/feral-street-cats/neutering/)にはこう書かれています。
The veterinarian removes 3 to 8 (occasionally 10) mm depending on the size of the cat from the left ear in a straight line (no small V-shapes, as they can look like injuries).
獣医師は、猫の大きさに応じて3~8(場合によっては10)mmを左耳から直線的に切除します(小さなV字型は、傷のように見えることがあるので不可)。
性別については触れられていないので、左耳の先端を切り落とすのが標準ということなのでしょう。V字カットそのものは否定されていませんが、大きく切らないと傷と区別がつかないということのようです。
ただし、Alley Cat Alliesのホームページ(https://www.alleycat.org/community-cat-care/why-the-eartip-on-outdoor-cats/)にはこうも書かれています。
There are hundreds of TNR programs in the U.S. The protocol of some of these programs is tipping the cat’s right ear, as is sometimes done on the west coast.
米国には何百ものTNRプログラムがあります。これらのプログラムの中には、西海岸で時々行われているような、猫の右耳をカットする手順があります。
まあ、左右どちらでもよいようです。
V字カットが日本人の感性に合うのか、日本ではV字カットが主流になっています。2012年に石垣島で実施された「どうぶつ基金」による大規模一斉TNRの際に、V字カットされた猫の耳を桜の花びらに見立てた「さくらねこ」という言葉が生まれたそうです(https://www.doubutukikin.or.jp/activity/campaign/story/)。それ以来「さくらねこ」という言葉は市民権を得つつあります。ですので、日本の獣医師は何も言わなくてもV字カットを行うと思いますが、耳カットにはいくつかの作法があることは知っておいた方がよいと思います。