かなり時間をかけて、米国のプロジェクトMillion Cat Challenge(#allthecats)による、アニマルシェルターが猫の殺処分を減らすための「5つの取り組み」についてご紹介しました。さすがシェルターメディスンの専門家が主導しているだけあって、「5つの取り組み」にはシェルターメディスンのエッセンスが凝縮されていて、そのままシェルターメディスンのテキストとして使えるのではないかとさえ思います。
その中でも、野良猫の殺処分を劇的に減らす方法としてRTFが紹介されています。RTFとはReturn to fieldの略で、アニマルシェルターに収容された野良猫に避妊去勢手術とワクチン接種を施し、元の場所に戻す事業をさします。TNRとやっていることは大差ありませんが、TNRが地域活動であるのに対し、RTFはシェルター事業である点が異なります。しかし日本においてはRTFの知名度は高くなく、TNRとの違いについてもよく理解されていないところがあります。
RTFはTNRとの比較でSNR(shelter-neuter-return)とも呼ばれますが、現在はFeral Freedomという事業名の方が通りがよいようです。”Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition”(2013)にも、この事業は「RTF」でも「SNR」でもなく「Feral Freedom」と記述されています。
まさにRTFの代名詞となったFeral Freedomですが、そもそも、米国フロリダ州ジャクソンビル市のアニマルシェルターで始まった事業名です。その成果や方法についてまとめた”The Feral Freedom Guide”がWEB上に公開されていて(https://www.fcnmhp.org/wp-content/uploads/2013/11/FeralFreedomGuide.pdf)、RTFのテキストとして広く参考にされています。このテキストをもとに、日本ではまだなじみがないRTFについて学んでいきたいと思います。
私は“The Feral Freedom Guide”の概略を読み、そこに強く関心を抱きました。その理由はこの2つです。
・公営(市営)のアニマルシェルターの事業として実施されていること
・アニマルシェルター自体が避妊去勢手術を行わず、協力団体が実施していること
日本でアニマルシェルターと呼ぶことができる施設のほとんどは地方自治体の動物管理機関、いわゆる「動物愛護管理センター」と称される施設です。しかも自ら猫の避妊去勢手術を実施できる設備と人員を備えている自治体は限られています。これらの理由から、日本でRTFを実施することを検討する場合、Feral Freedomが先行事例として非常に役立つと思われます。
これからしばらくは “The Feral Freedom Guide”を参考に、RTFの可能性について考えていくことにします。