動物の避妊法<雌性避妊>

メスの避妊法について、繁殖学の教科書である「獣医繁殖学」(文永堂出版、森純一、1995)を参照し、最新の知見も交えてまとめてみました。

 

雌性避妊

メスに何らかの処置を施し避妊するには、①発情を阻止し交尾しないようにする ②受精を阻止する といった方法が考えられます。教科書的には ③胚の発育や着床を阻止する ④妊娠中絶(人工流産)も雌性避妊とされていますが、受精以降の胚や胎子はすでに「生命」ですから、「避妊」ではなく「堕胎」ではないかという考え方もあります。私もその考え方を支持します。よって③④は割愛します。

 

発情(排卵)の阻止

 

非可逆的な方法

卵巣摘出(卵巣割去) 外科的に卵巣を摘出する方法です。欧州では卵巣摘出術、米国では卵巣子宮摘出術が一般的です。

 

可逆的な方法

プロジェステロン プロジェステロンは負のフィードバックによりGnRHの分泌を抑制し、卵胞の発育と排卵を阻止します。酢酸メゲストロールは人工合成のプロジェステロンです。

アンドロジェン アンドロジェンは負のフィードバックによりGnRHの分泌を抑制し、卵胞の発育と排卵を阻止します。経口剤(ミボレロン)が代表的薬剤です。

GnRH作動薬 GnRHに似た物質を継続的に投与することで、下垂体のGnRHに対する感受性を低下させ(ダウンレギュレーション)、FSHやLHの分泌を抑える方法です。デスロレリンが代表的薬剤です。

GnRH拮抗薬 GnRHに似ているが、効果を示さない物質を投与することでGnRHが作用しないようにする方法です。今のところ人間用しか開発されていません。

GnRHワクチン ワクチン接種により体内にGnRHを攻撃する抗体をつくり、GnRHの作用を妨害しようとする方法です。今のところ実用化されていませんが、今後期待されている分野です。

偽妊娠(猫) 猫の場合、物理的に交尾刺激を与え排卵を誘発することで、偽妊娠の状態にすることができます。緊急避難的に用いることはできますが、何回も繰り返すと副作用のおそれがあります。

 

受精の阻止

 

非可逆的な方法

卵管切除もしくは卵管結紮 人間で用いられる方法ですが、犬や猫の場合卵巣を温存するメリットがあまりないため、一般的ではありません。

 

可逆的な方法

透明帯ワクチン ワクチン接種により、卵子を包んでいるタンパク質の「透明帯」を攻撃する「抗透明帯抗体」をつくり、受精を阻止する方法です。透明帯ワクチンは主にと殺された豚や牛の卵巣から取り出された透明帯から作られていますが、遺伝子組み換えワクチンも研究されています。