プロジェスチンによる避妊

犬や猫の避妊には一般的に外科的手段が用いられていますが、避妊薬を用いた非外科的避妊の試みも1960年代から行われていました。現在では透明帯ワクチンやGnRH作動薬といった新しい避妊薬が開発されていますが、当時は性ホルモンを用いて発情をコントロールする方法が用いられ、現在でも主流となっています。そこで用いられているのが、プロジェステロン(黄体ホルモン)類似物質のプロジェスチン(プロゲスチン)です。

 

プロジェスチンは体内でプロジェステロンとして働き、視床下部に「ホルモンの量が十分なので分泌しなくてもよい」という信号を出します。その結果視床下部からのGnRHの分泌が抑制され、下垂体からのFSHやLHの分泌も抑制され、発情が抑制されるのです。非常にざっくりとした言い方をすると、体内にホルモンバランス的に妊娠状態に似た状態を作り出し、発情させなくするわけです。

 

しかしホルモン剤は「よく効く」反面、副作用も起こりやすい「両刃の刃」です。生物学の授業で聞いた方もおられるかもしれませんが、ホルモンはごく微量でも効果を示すので、思わぬ副作用が発生したりします。一時期流行語にもなった「環境ホルモン」(内分泌かく乱物質)のように、ホルモン類似物質がごく微量体内に入っただけでも体に影響を与えたりするのです。

 

そのため、効果を残しながら用量を抑え、副作用を軽減できるようなプロジェスチンの開発が進み、現在ではさまざまな種類のプロジェスチンが用いられています。それらのほとんどは人間用で、犬猫用には比較的古いタイプのプロジェスチンが用いられています。現在のところ、避妊目的に犬猫用に用いられているプロジェスチンは下のとおりです。

 

・酢酸メゲストロール(MAまたはMGA; Megecat®、Ovaban®):経口

・メドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA; Provera®、Depo-Provera®):注射

・プロリゲストン(Covinan®、Delvosteron®):注射

・クロルマジノン酢酸エステル(ジース®インプラント):皮下インプラント

 

そのうち、犬の発情抑制剤として日本で承認されているのはプロリゲストンとクロルマジノン酢酸エステルです。MPAは人間用医薬品として承認されているので、国内で入手可能です。MGAは経口投与が可能で使いやすいのですが、日本では人間用医薬品としても承認されていないので(医療現場からは承認の要望があるようですが)、個人輸入で入手するしかありません。

 

MGAやMPAが動物用の避妊薬として承認されている国もありますが、いずれもメス犬の発情防止に対する承認で、オス犬や猫には承認されていません。特にMPAは猫には使用してはならないとされています。