飼い主のいない猫の避妊 その1

飼い主のいない猫の個体数管理法として、比較的広く受け入れられているのがTNRであることは言うまでもありません。動物福祉や公衆衛生、野生生物保護などの観点からTNRに反対する意見も根強いのですが、キャッチ&キル(捕獲して殺処分)やTNRel(避妊去勢手術後の猫を元の場所にリターンすることなく、他の場所にリリースする)よりも良い方法であることは明らかです。

 

TNRの”N”は避妊去勢手術を指しますが、ACC&D(Alliance for Contraception in Cats & Dogs:猫と犬の避妊のための同盟)は、外科的手段によることなく飼い主のいない猫の避妊を実現する方法について検討しています。特に猫の避妊去勢手術については、身体的侵襲がきわめて低い術式が確立されていますが、手術しなくて済むのであれば手術はしないほうがよいというのがACC&Dの立場です。しかしそこには技術的な問題があります。ACC&Dのレポート"Contraception and Fertility Control in Dogs and Cats"(2013)には、こういう記述があります。

 

One of the issues discussed among stakeholders advocating the development of non-surgical methods of population control in cats relates to whether or not a given approach must provide permanent sterilization. Indeed, the Michelson Prize & Grants program of the Found Animals® Foundation (see section 5.9.1) is focusing on discovery and development of a single approach to permanent, nonsurgical sterilization that will work in male and female cats and dogs. For some time, the working assumption made by many stakeholder groups concerned with unowned populations of cats and dogs was that since animals such as feral cats may only be able to be treated once, sterilization was required to have significant impact on population control. 

 

猫の非外科的個体数管理法の開発を提唱する関係者の間で議論されている問題のひとつに、恒久的避妊の必要性があります。実際、ファウンドアニマル財団のミケルソン賞&助成プログラム(セクション5.9.1参照)は、オスとメスの猫と犬に有効な、外科的処置を伴わず1回の処置で恒久的に避妊することができる方法の発見と開発に焦点を当てています。しばらくの間、猫や犬の飼い主のいない個体群に関係する多くの関係者グループによってなされた作業仮説※は、野良猫のような動物は一度しか処置できないかもしれないので、個体群管理に大きな影響を与えるには恒久的避妊が必要であるというものでした。(p118)

 

※作業仮説(working assumption):研究や実験を進める過程で、暫定的に有効とみなされてたてられる仮説のこと。わかりやすく言うと、研究を進める際に「たたき台」にする仮設。