結局、犬猫の避妊はどうするのか

ここまで長々と犬猫の避妊について考えてきました。現在において主流である避妊去勢手術から始まり、性ホルモン剤やGnRH作動薬といった一部で臨床応用されている方法、そして精巣内注射や避妊ワクチン、GnRH阻害薬など、今後期待されている技術についても少し触れました。それぞれに利点や欠点があり、薬剤の流通や法的問題も絡んでくるということもお伝えできたと思います。

 

ここまで読んでいただいたみなさんは、どうお感じになったでしょうか。単刀直入に申し上げると、現時点においては避妊去勢手術が現実的かつ確実な犬猫の避妊方法であるという結論に至ります。AVMA(米国獣医師会)やASV(シェルター獣医師会)も認めているように、非外科的避妊はまだ発展途上の技術であり、現時点において避妊去勢手術の完全な代替とはなりえないというのが一般的な見方です。

 

ASPCA(米国動物虐待防止協会)はコロナ禍の緊急避難的措置として、米国において動物用医薬品として承認されていない避妊薬「酢酸メゲストロール」を獣医師が処方することを支持すると表明しています。またAlley Cat Alliesは野良猫にも「酢酸メゲストロール」が使用可能としています。しかしそれらは避妊去勢手術までの「つなぎ」としての使用であり、完全に代替できると言っているわけではありません。

 

それでもACC&D(猫と犬の避妊のための同盟)は、犬猫の「完璧な」非外科的避妊法の開発をあきらめてはいません。その理由はおおむね次のとおりです。

 

・外科手術による犬猫の負担の軽減

・外科手術に要する費用の軽減

・外科手術に必要な設備等の軽減

・飼い主がいない犬や猫の個体数管理のために「簡便で低コスト」の避妊法が必要

 

そしてその避妊法に求められる条件は次のとおりです。

 

・規制当局による承認が得られること(効果と安全性)

・1回の処置で永続的または長期(3年以上)の効果が期待できる

・オスとメスの両方、かつ犬猫の両方で効果があること

・行動や健康への影響がはっきりしていること

・手頃な価格で提供可能なこと

 

現時点でここに最も近い位置にいるのはGnRH作動薬の「酢酸デスロレリン」のインプラント剤ですが、日米加において承認が得られていませんし、EUや豪州など、承認されている国においてもオス犬にしか承認されていません。承認されていないということは、規制当局が効果や安全性に懸念を抱いているということです。犬猫の「完璧な」非外科的避妊法は製造メーカーに莫大な利益をもたらす可能性があるため、その研究開発は秘密裏に進められていて、その進捗状況について我々が知ることはおそらくないでしょう。しかしかなりハードルが高いことは明らかです。

 

私見ですが、犬猫の「完璧な」非外科的避妊法が完成する日を待つことなく、避妊去勢手術の術式や麻酔法のさらなる改良が進み、執刀医の育成やスペイクリニックの普及などと併せ、犬猫の飼い主のすべてが(そして飼い主がいない犬猫も)手軽に避妊去勢手術にアクセスできるような世の中が来るような気がします。いや、来てほしいと願っています。