現時点において、TNRには猫の避妊去勢手術が必須ですが、そこには「手術費用」と「手術枠の割り当て」という大きな問題があります。Bryan Kortis (2014)の” PetSmart Charities Community TNR: Tactics and Tools”にはこう記載されています。
手術費用の問題
TNRが地域社会で広く実践されるためには、無料または非常に低廉な料金で避妊去勢手術が受けられることが不可欠です。例えば1匹1万円の手術費用は、ペットの手術費用としては低廉であると感じるかもしれませんが、10匹の野良猫を世話している世話人にとっては10万円の出費になります。日ごろ餌代等もかかっていますから、この出費はかなり痛いと考えられます。TNRを積極的に推進するためには、手術費用の補助によって世話人の出費を極力抑える必要があります。(p101-102)
では米国において、具体的にどれくらいの自己負担を世話人に求めているのでしょうか。
In the ideal situation, TNR programs would fully subsidize surgeries and offer services free to caretakers. This makes sense considering that caretakers, even without having to pay the veterinary costs, are still bearing other expenses, such as bait, food and transportation, and donating their time and labor. But tight program budgets often mean fully subsidized surgeries may not be feasible and some co-payment for spay/neuter surgery is needed. Many programs have successfully charged caretakers a co-pay of anywhere from $10 to $20 per cat and still been able to fill available surgery slots.
理想的には、TNR活動は手術を全額補助し、世話人には無料でサービスを提供することでしょう。獣医療の費用がなくても、世話人は餌代や食費、交通費など他の費用を負担し、時間や労働力を提供していることを考えれば、これは理にかなったことです。しかし、活動の予算が限られているため、全額補助の手術は不可能な場合が多く、避妊去勢手術に何らかの自己負担が必要になることもあります。多くの活動では、猫1匹につき10ドルから20ドルの自己負担を世話人に課し、それでも手術の枠を埋めることに成功しています。(p102)
手術枠の割り当ての問題
Targetingの項でも説明しましたが、避妊去勢手術の能力が限られている場合、手術枠の割り当てにも工夫が必要です。それぞれ10匹の猫のコロニーを世話している世話人4人が猫の避妊去勢手術を希望した場合、手術能力が20匹であれば4人に5匹分ずつを割り当てるのが一見公平です。しかしその場合、各コロニーの避妊去勢率は50%にとどまり、個体数減少の効果が見込めません。Targeting の効率を考えると、2つのコロニーに10匹分の手術枠を割り当て、2つのコロニーの避妊去勢率を100%にすることが望ましいといえます。さらに手術ができるようになれば、他のコロニーのTNRに着手できます。もっとも、十分な手術枠があれば、このような心配をしなくても済むのですが。(p102-103)