カメの安楽殺について

2022年4月22日のニュースで、環境省がアカミミガメの殺処分について言及していました。終生飼養を基本としながら、飼えなくなった場合の殺処分の方法について周知するとのこと。アカミミガメは外来生物ですから、野に放たれると生態系をかく乱するため、殺処分はやむを得ないと思いますが、外来生物だからといって惨殺してよいわけではありません。人間都合で死んでいただくのですから、確実に安楽殺を実行し、苦痛を与えずに殺処分を行う必要があります。

では、カメを含む爬虫類の安楽殺はどう実行するか、このブログではおなじみのAVMA(米国獣医師会)の「安楽殺ガイドライン(2020)」から見ていきましょう。これを読んでいただくとおわかりかもしれませんが、爬虫類といえども安楽殺は簡単ではなく、獣医師による慎重な処置が必要です。

 

※と殺銃や脊髄切断といった、主にワニなどの大型爬虫類に用いられる物理的方法は割愛します。

 

容認される方法

・ペントバルビタールナトリウム(60~100mg/kg)の静脈内、皮下リンパ腔、リンパ嚢(lymph sacs)への注射投与(やむを得ない場合は胸腔内投与も容認される)

・MS222(メタアミノ安息香酸エチル・メタンスルホン酸塩)の骨髄腔注射

※MS222は魚類の麻酔薬で、両生類の安楽殺薬として水浴で用いられます。

 

条件付きで容認される方法

・吸入麻酔薬(確実に死を確認するか、断頭等の補助的致死処置が必要)

・二酸化炭素(代替方法がない場合に検討、断頭等の補助的致死処置が必要)

・液体窒素による急速凍結(4g未満の個体のみ可)

 

補助的に用いられる方法

・断頭(麻酔下で実施、処置後はピッシング等の補助的致死処置が必要)

・ピッシング(麻酔下で実施、脳組織を物理的に破壊する)

 

※麻酔は解離性麻酔薬(塩酸ケタミンまたはチレタミン+ゾラゼパムなど)、吸入麻酔薬、静脈内注射麻酔薬(プロポフォールなど)、超短時間作用型バルビツレート(チオペンタールなど)などによって行います。

 

容認されない方法

・冷凍(凍結時に生じる氷の結晶が苦痛を与えるため不可、ただし安全上の理由で他の方法を用いることができない場合に、深い麻酔をかけた状態で行われることがある)

 

「カメは冷凍すると冬眠に入り、眠りながら死ぬので安楽殺できる」という都市伝説がありますが、それは間違いです。カメが冬眠状態でじっとしているのは体温が低くて動けないからであって、意識が消失しているわけではありません。そういう状態で凍らされると、眠ったように安らかに死んだように見えるかもしれませんが、ただ単に体が動かないので「痛い」と意思表示することもできず、悶絶しながら死んでいるのです。