「ノネコ」の生態系への影響
日本において「ノネコ」の捕獲は、主に島嶼部で行われています。一般的に「ノネコ」を捕獲し環境中から取り除くことは、空いたなわばりに新たな「ノネコ」の流入を招きかえって「ノネコ」の個体数増加を招くという、いわゆる「真空効果」が発生するといわれています。しかし島嶼部などの隔絶環境下においては、新たな「ノネコ」の流入を防止する対策をとれば、いわゆる「真空効果」は発生しないとされています。
日本の島嶼部には、独自の進化を遂げた希少生物が生息する地域がたくさんあります。沖縄本島や奄美諸島、小笠原諸島など地上の大型捕食者が存在せず、その環境に合わせて生物が進化してきたような環境の中に「ノネコ」が入り込めば、大規模な生態系の撹乱が起こります。また西表島や対馬といった、もともと野生のネコ科動物が生息していた場所に「ノネコ」が入り込めば、在来種との競合が起こりますし、FIVなどの病原体が持ち込まれるおそれがあります。このような地域で「TNRでノネコの個体数を減らしましょう」なんてやっていては、ノネコよりも先に在来種が絶滅してしまいます。生態系の撹乱を阻止するためには、ノネコを捕獲して環境から除去するしかないわけです。
「ノネコ」対策としてのTNR
では「ノネコ」対策にTNRは無力なのでしょうか。よく考えてみてください。当たり前ですが、飼い猫がいきなり「ノネコ」になることはありません。飼い猫が飼い主の元を離れて「ノラネコ」になり、「ノラネコ」が野生化して「ノネコ」になるのです。つまり「ノラネコ」の数を減らせば、結果的に「ノネコ」を減らすことができます。TNRによって「ノラネコ」の個体群を管理することにより、「ノネコ」の発生を抑制することができるのです。徳之島では生息予想数を上回る「ノネコ」が捕獲されていますが、完全に捕獲しきれていません。まさに「ノラネコ」が「ノネコ」化しているのです。徳之島では「ノラネコ」のTNRも実施されていますが、まだまだ不十分のようです。
「ノネコ」も被害者
ポーランド科学アカデミーが「イエネコ」を「侵略的外来種」と認定し物議をかもしていますが、前述のとおり日本においても「ノネコ」はすでに同様の扱いです。「侵略的外来種」というと、あたかも猫が異世界からやってきた侵略者であるかのようですが、人間の無責任さが「ノラネコ」を生み、それが野生化して「ノネコ」になることを考えれば、「侵略」しているのは猫ではなく、人間そのものであるといえます。元来ペットとして改良されてきたイエネコが、野生動物として生きていかねばならなくなったのはなぜかということをよく考えたうえで、生態系にも「ノネコ」にも優しい対策を考えていかなければならないでしょう。
※「イエネコ」は生物種としての「家畜化されたリビアヤマネコ」(Felis silvestris catus)の通称で、「飼い猫」「ノラネコ」「ノネコ」のすべてを含みます。