譲渡できない「ノネコ」はどうするか?

日本において生態系保護を目的に捕獲された「ノネコ」(野生化した猫)は、一応譲渡を試みたうえで、譲渡できなければ殺処分されます。生態系保護を目的に捕獲した「ノネコ」に避妊去勢手術を施しリターンするわけにはいきませんし、他の場所に移住させたとしても、新たな生態系のかく乱が起こるからです。

私は必ずしも「ノーキル」の立場をとりませんし、譲渡不適の「ノネコ」を無理やり譲渡することも善しとはしませんが、前回も述べたとおり、本来飼育動物として改良されてきた「イエネコ」が、なぜ野生の「ノネコ」として生きていかねばならないのかということを考えると、「譲渡できないなら殺処分」というのはあまりにも無慈悲だという気持ちもあります。

 

野良猫の移住は困難

生態系保護のために捕獲された「ノネコ」に限らず、何らかの理由で野良猫を元の場所に戻せない場合、捕獲し保護するしかありません。例えば、

 

・開発中の土地のため、リターンが困難

・危険な場所や管理困難な場所(工場敷地等)のためリターンすることが不適当

・TNRやRTFについて、地元住民の同意が得られない

 

「他の場所に移住させればよいではないか」という意見もあるでしょうが、野良猫の移住は簡単な話ではありません。昔から「犬は人につき、猫は家につく」と言うように、猫は縄張りを大切にします。他の場所に移されたとしても、元の縄張りに戻ろうとします。たとえコロニーごと移住させたとしても、コロニーが瓦解し管理不能になる可能性があります。元の場所に戻せない野良猫は譲渡するか、譲渡できなければ殺処分するしかないというのはこういうことです。

 

「サンクチュアリ」での「終生飼養」は困難

それなら「サンクチュアリ」と称する「ノーキル」シェルターで「終生飼養」すればよいと簡単に言う人もいますが、現実は厳しいと言わざるを得ません。動物福祉に準拠した、終生飼養可能なシェルターをばんばん作ればよいのかもしれませんが、おそらく多額の建設費と多数のスタッフが必要です。その資金はどこから出て、だれが運営するのか?という疑問は付きまといます。「動物保護団体」を名乗るアニマルホーダーが殺処分を回避するために劣悪な環境下で動物をため込み、多頭飼育崩壊に至る例は珍しくありません。たとえ「飼い殺し」であっても、生かしておけばそれでいいというのであればそれもアリかもしれませんが、考えただけでもおぞましい話です。

 

新たな発想の「サンクチュアリ」

「TNRは難しいが殺処分は回避したい、費用もかけたくない」というムチャな命題に対するひとつの選択肢として、米国フロリダ州の獣医師団体が提唱する「サンクチュアリ」を挙げることができます。次回から、その詳細について学んでいくことにしましょう。