HAHF(ヒルズボロ動物健康基金)が提唱する、野良猫の「サンクチュアリ」について、HAHFのレポート(https://hahf.org/wp-content/uploads/media-1/AWAKE-Cat-Management-Program-for-Hillsboroough-County.pdf)から見てきましたが、その問題点と実現可能性について最後に述べたいと思います。
TNRと「サンクチュアリ」は哲学が異なる
HAHFはTNRの代替として「サンクチュアリ」を提唱していますが、そもそもTNRと「サンクチュアリ」は根本的な哲学が異なると私は考えています。TNRは、地域に野良猫が生息しているという現状を変えることなく、野良猫の個体数を穏便に減らしていこうという試みです。そもそもTNRは「ノーキル」の手段として生まれましたが、現在においては地域の生活環境保全活動と位置付けられています。TNRは初期投資が比較的かからないため、草の根の活動として個人や小規模団体での活動も可能です。
対して「サンクチュアリ」は、すべての野良猫を保護し、「飼い猫」として管理していこうという考え方です。ここまで見ていただいてお分かりのとおり、「サンクチュアリ」はそれなりの初期投資と運転資金が必要です。獣医師による積極的な介入も求められます。組織的に行政や企業などを巻き込んでいかなければなかなか難しいといえます。
「サンクチュアリ」の問題点 ①費用がかかる
「サンクチュアリ」の問題点は「費用がかかる」の一言に尽きます。HAHFもそれは分かっていて、すべての野良猫を「サンクチュアリ」に収容しろとは言っていません。HAHFは野良猫は譲渡や里親により家庭に入れることを第一に考えるべきで、真にやむを得ない理由で行き先がない野良猫のみを「サンクチュアリ」に入れるべきとしています。
「サンクチュアリ」の問題点 ②譲渡ありき
HAHFは日本の環境省なみに譲渡を甘く見ていますが、「譲渡ありき」の考え方はきわめて危険です。「野良猫は全頭保護し、譲渡すればよいではないか」というのは確かに正論です。ただしそれは、譲渡の受け皿が無尽蔵であるという前提に立っています。譲渡を求める人の中には根本的に動物の飼育に向かない人もいますから、厳しく審査すれば適切な譲渡先は思ったほどないものです。だからといって緩い基準の「垂れ流し譲渡」は人間と動物双方の福祉を損ねることは言うまでもありません。
「サンクチュアリ」の正しい使い方
とはいえ私は、この2つの問題をクリアできるのであれば、元の場所にリターンできない野良猫の殺処分を回避する最終手段として、「サンクチュアリ」は悪くないアイディアだと思っています。「野良猫」としての存在を容認されないのであれば「飼い猫」として生きていくか、殺処分されるしかないのですから、「サンクチュアリ」で「飼い猫」として生きていくという選択肢は残しておくべきだと思います。