自治体や保護団体が、野犬の特性を十分に理解していない人に「押し付ける」ように野犬を譲渡し、その結果様々なトラブルが発生しているのですが、その背景は国や自治体の「殺処分ゼロ」施策にあります。
かつて野犬は「譲渡適性なし」と判断され、基本的に殺処分されていました。譲渡に回される犬は、その大部分が飼い主が手放した元飼い犬でした。動物愛護法第35条で自治体の義務として「殺処分がなくなることを目指して」譲渡に努めると規定されて以来、各自治体は「殺処分ゼロ」を競うようになりました。各自治体は、過剰繁殖問題を脇に置き、譲渡を推進することにより殺処分数を減らすことに奔走しています。特に地方では保護動物(特に野犬)を譲り受けてくれる個人がそう簡単に見つかるはずもなく、地元の動物保護団体が受け皿となっています。かつて自治体による殺処分を激しく非難していた動物保護団体が「殺処分ゼロ」の旗のもと自治体に協力するという、まさに呉越同舟の状態となっています。自治体はそれをいいことに、引取った動物たちを団体に「丸投げ」しています。
動物保護団体が受け入れた動物の多くは大都市圏の個人に譲渡されますが、譲渡先が見つからなかった動物たちはそのまま動物保護団体が飼うことになります。それでも限度がありますから、キャパオーバーとなれば他の団体に流れていきます…運が悪ければ京都の「神様」のようなアニマルホーダーの元で飼い殺し(「本当に」殺された子たちもいますが)にされてしまいます。
無事譲渡されたとしても、野犬を甘く見た都会人が逃がしてしまうという事例も多数発生しています。譲渡時に避妊去勢手術が実施されていればまだ救いはありますが、未実施であれば、新たな土地で繁殖する可能性があります。最近問題となっている「保護犬ビジネス」も、元はといえば自治体による保護団体への「丸投げ譲渡」から始まっています。
私から見れば、野犬がババ抜きのジョーカーのように、自治体から保護団体へ、さらに一般の飼い主へと押し付けられているように見えるのです。廃棄物問題をはじめさまざまな環境問題に共通しますが、誰もがジョーカーを自分の手元から一刻も早く手放したいとの一心で姑息な行動に走ろうとします。そして手元からジョーカーがなくなれば「めでたしめでたし」なのです。最終的にジョーカーをつかまされるのは、動物たちが最後にたどり着いた先の一般の飼い主であり、かわいそうな思いをするのは譲渡された動物自身です。「殺処分ゼロ」の大義のためとはいえ、野犬を一般家庭に安易に譲渡してしまうことは、人も動物も不幸にしてしまう「誰も得をしない」システムです。
ではどうすればよいか?それは「ていねいな譲渡」に尽きます。つまり、収容時の行動評価、収容中のエンリッチメントの提供、必要に応じた馴化、そして譲渡時の適切なマッチングです。また保護団体に譲渡を委託するのであれば「丸投げ」ではなく相応のフォローをすべきです。「人員不足の折、それができれば苦労はない」という担当者のボヤきが聞こえてきそうですが、そういう当たり前のことができていないからこそ、さまざまな問題が起こっているのです。