犬の収容時の行動評価について、シェルターメディスンではどう考えているのかを簡単に見ていきましょう。Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition(2012)にはこう記載されています。
Animal shelters have an ethical responsibility to identify aggression and other behavioral issues prior to transfer. We cannot assess all aggressive behavior, but we can use it as a tool to aid in the process. The Wells and Hepper study, along with others (Houpt, Honig and Reisner, 1996), point to behavioral problems and his risk to human-animal bonding. Behavioral assessment can serve not only as a way to reduce the likelihood of repatriation, but also as a way to reduce liability in the shelter environment.
アニマルシェルターには、譲渡前に攻撃性やその他の行動上の問題を特定する倫理的責任があります。 すべての攻撃的な行動を評価することはできませんが、それをプロセスを支援するツールとして使用できます。WellsとHepperの研究は、他の研究 (Houpt、Honig、および Reisner、1996 年) とともに、行動上の問題と、それが人間と動物の絆に及ぼすリスクを指摘しています。行動評価は、シェルターへの返還の可能性を減らす方法としてだけでなく、シェルター環境での責任を軽減する方法としても役立ちます。(P531)
米国のアニマルシェルターに収容される犬の大半は、飼い主が放棄した元飼い犬や、虐待(ネグレクトを含む)からレスキューされた犬です。そういった犬たちは、かなりの確率で行動上の問題を抱えています。米国の文献では野犬はほとんど登場しませんが、野犬も行動上の問題を抱えている犬の一群に加えてよいでしょう(私の経験では、まったく社会化されていないネグレクトの被害犬よりも、野犬の方がはるかに馴れやすいです)。こういった犬の行動的問題を特定し、譲渡先の選定の参考にしたり、譲渡先に説明したりすることはアニマルシェルターの倫理的責任というわけです。
そうやって丁寧に譲渡を行っても、一定数の犬はシェルターに戻ってきます。元々が行動上の問題を抱えている犬たちですから、新しい飼い主とマッチしないことは十分に予想されます。米国のアニマルシェルターは、譲渡した動物が戻ってくることを「失敗」とは考えていません。また新しい飼い主を見つければよいだけの話だからです。一時的とはいえ犬が家庭で過ごすことができたわけですし、返還時の聞き取りなどによって、その動物の行動的問題についてのデータがさらに蓄積できるため、かえって前向きに捉えています。
また米国は訴訟社会ですから、行動上の問題を十分説明せずに譲渡した犬が、譲渡先で問題行動を起こし人や財産を傷つけた場合、譲渡したシェルターの責任を問われかねないため、行動評価はなおさら重要です。