避妊去勢手術による行動修正効果 その1

ここまで行動上の理由で「譲渡不適」と判断された犬の行動修正について見てきましたが、そもそも譲渡する犬は避妊去勢手術を実施するのが前提ですので、手術による行動変容が期待されます。実際に犬の行動治療の一環として避妊去勢手術が実施されることもあります。そのあたりはどうなのでしょうか。

その効果は、その行動が精巣や卵巣から分泌される性ホルモンが関わっているか否かで異なります。AVMA(米国獣医師会)の“A literature review on the welfare implications of gonadectomy of dogs”ではこのように記述されています。

 

Gonadectomy and the resultant decrease in gonadal steroid hormones typically result in a marked reduction or elimination of sexually dimorphic behaviors, including roaming, hormonal aggression (fighting with other males or females), and urine marking.

性腺摘出術とその結果としての性腺ステロイドホルモンの減少は、通常、徘徊、ホルモン性の攻撃(他のオスまたはメスとのけんか)、および尿マーキングを含む二次性徴性行動の著しい減少または排除をもたらします。

 

ただしこうも書かれています。

 

The literature provides consistent results regarding the effects of gonadectomy on behaviors driven by testosterone or estrogen; however, studies involving behaviors not directly related to gonadal steroid hormones have resulted in mixed findings.

文献は、テストステロンまたはエストロゲンによって引き起こされる行動に対する性腺摘出の効果に関して一貫した結果を提供しています。しかし、性腺ステロイドホルモンに直接関係のない行動を含む研究では、さまざまな結果が得られています。

 

譲渡対象の犬の避妊去勢手術は繁殖防止が目的ですから、行動変容についてはあくまでも「おまけ」ですので、過剰な期待は禁物です。しかし少なくとも、性行動に伴う問題行動の軽減は期待できそうです。

 

去勢による行動修正効果

去勢によってオス犬の攻撃行動はある程度軽減できるといわれていますが、完全になくすことは難しいようです。動物行動専門医の意見を引用しておきます。

 

「攻撃行動を治療するために去勢手術をする」という話を聞いたことがあるかもしれませんが、決して去勢手術が攻撃行動を完全に解決するわけではありません。テストステロンは刺激に対する反応性を促進させ、未去勢雄では、同じ刺激に対してより素早く、激しく、長時間にわたって反応を示すといわれています。したがって、去勢手術により攻撃の程度を減じることはできるかもしれませんが、根本的な解決につながるわけではないということです。

『最新 犬の問題行動 診療ガイドブック』荒田明香ほか(2011)、p50

 

要するに、去勢ですべてが解決するわけではなく、行動療法等と組み合わせていく必要があるということです。