スペイクリニックとは何か

“spay-neuter program”の多様化

米国において、シェルターメディスンという獣医療分野が確立したのは2000年頃といわれています。シェルターメディスンはシェルターに収容された動物の人道的取扱いについてはもちろん、シェルター内の感染症対策、動物虐待対策、災害対応、譲渡や里親ケア、安楽殺など非常に広範な内容を包括していますが、その中でも主要な分野として「動物の繁殖制限」が含まれています。地域の動物の繁殖制限を実施することにより、シェルターに収容される動物の数が減ることが期待されるからです。

 

アニマルシェルターや動物保護団体、自治体などは、低所得者のペットや野良猫などを対象として、比較的廉価に動物の避妊去勢手術サービスを提供する“spay-neuter program”を展開しています。具体的にはstationary clinic(固定式のクリニック)、mobile clinic(車両を改造した移動式のクリニック)、MASH-style operation(仮設の手術室で行う「一斉手術」)、shelter service(シェルターの手術室で行うサービス)、services provided through private practitioner(一般開業医によって提供されるサービス)など多様です。この現状を受けてASV(シェルター獣医師会)は、2008年にspay-neuter programの最低基準を定めるガイドラインを制定しました。現行のガイドラインは2016年に改定された第2版“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”です。

 

前置きが長くなりましたが、spay-neuter programの様々な形態の中で、固定式のクリニックのことをstationary spay/neuter clinic、またはspay/neuter clinicと呼んでいます。近年日本においてもこの形態のクリニックが増えていて、「スペイクリニック」と呼ばれています(本当は「スペイニュータークリニック」なのでしょうが、長すぎますね)。以降、ここではstationary spay/neuter clinicのことを「スペイクリニック」と呼ぶことにします。

 

スペイクリニックの特徴

スペイクリニックは、動物(特に犬や猫、米国ではウサギを扱うこともある)の避妊去勢手術を比較的廉価で提供することを目的にしています。ですので、一般の動物病院(「スペイクリニック」との対比で「フルサービス」の動物病院と呼んでおきます)とは業務内容がかなり異なります。

 

スペイクリニックは避妊去勢手術に特化することにより、比較的低廉なサービスを提供しています。もちろん、ワクチン接種や駆虫、マイクロチップ装着やFIV検査など、付帯的なオプションサービスは実施します。そのため、麻酔器やオートクレーブといった、避妊去勢手術を実施するうえで最低限必要な機器しか備えていません。高度医療に関してはフルサービスの動物病院に任せるということです。