スペイクリニックの法的規制 その3

日本でスペイクリニックを開設する際に満たすべき施設基準について、「獣医師法の一部を改正する法律及び獣医療法の運用について(平成4年9月1日4畜A第2259号 各都道府県知事あて農林水産省畜産局長通知)」から見ています。

 

他の飼育動物への感染を防止するために必要な設備

「伝染性疾病にかかっている疑いのある飼育動物を収容する設備」には「他の飼育動物への感染を防止するために必要な設備」を設けなければなりません。スペイクリニックはその性格上、「感染症疑いの動物お断り」とは言いにくいので、この条文に該当します。ではどのような設備を設ければよいのか、「通知」にはこう書かれています。

 

(ア)伝染性疾病にかかっている疑いのある飼育動物を隔離して収容する設備

(イ)檻・ケージの間に間仕切り板を設置したもの

 

これを素直に読めば、別のケージに収容すれば事足りる、場合によっては同じケージに仕切り板を入れておけばよいということになります。一般的なスペイクリニックは2泊以上の入院はまれで、また預かった動物は捕獲器やケージなどで個別に管理するため、感染症が疑われる動物は他の動物のケージから離すという措置を取るのであれば、この要件は満たすことができると考えます。ただし曖昧な条文の解釈には「ローカルルール」がつきものですので、この点については管轄の家畜保健衛生所に確認が必要です。

 

消毒設備

動物病院には「煮沸消毒器及び減菌手洗器」が必要です。「及び」なので両方必要です。「煮沸消毒器」は鍋とコンロでもよいのでしょうが、医療用専用品も販売されています。またオートクレーブやガス滅菌器があればそれでよしとする自治体もあります。

 

「減菌手洗器」は手指の消毒装置を備えた手洗い場です。「減菌手洗器」で用いられる水は、厳密に言えば滅菌水でなければならないのですが、人間の「医療法」においては現在そこまでは求めず、水道水や管理された清潔な水であればよいとしています。実際に「医療法」からは「減菌手洗器」という表現は消えています。しかし「獣医療法」の「通知」にはいまだにこの表現が残っているのです。おそらくそのあたりは柔軟に運用するのではないかと推測されますが、管轄の家畜保健衛生所に確認するのが一番早いでしょう。

 

また「伝染性疾病にかかっている疑いのある飼育動物を収容する設備を有する場合」は、その設備を消毒するための噴霧器、散霧器等を備えなければなりません。噴霧器は一般用でも問題ありませんが、塩素剤に耐えられる素材が望ましいといえます。動物で問題になる病原体はパルボウイルスやカリシウイルスなど、アルコールが効きにくいものが多いので、ケージ等の消毒には塩素剤がよく用いられるからです。