米国のシェルターメディスンに従事する獣医師の団体であるASV(シェルター獣医師会)は、2010年に“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters”(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン、以下「旧ガイドライン」)を発表していて、シェルターメディスンの教科書的な役割を果たしてきました。「旧ガイドライン」は、その後のアニマルシェルターをめぐる情勢の変化に対応するため、2022年12月に改訂され、“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition” ※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)として2023年1月に公開されました。
「ガイドライン」の目的
「ガイドライン」は次のような事項を提供するものです。(p1)。
・科学的根拠と専門家の合意に基づいた、シェルターにおける伴侶動物のケアと福祉に関する一連の共通基準
・動物保護団体が過密状態、ストレス、疾病を減らし、安全性を向上させるための指導事項
・動物福祉団体や地域社会がシェルターを評価・改善するためのツール
・シェルターに関する規制や法令を作成するための参考資料、組織変革のための指針
・既存の動物飼養施設に関する指導と、新規建設時の設計の優先事項の提示
・シェルターメディスンと動物のケアについての研究と実践の発展に対応する現在進行形の文書
「ガイドライン」の基本原則
改訂された「ガイドライン」はかなりボリュームアップしていて、記載項目も増えていますが、基本原則自体は変わっていません。「ガイドライン」にはこう書かれています。
Both documents share the guiding principle that meeting each animal’s physical and emotional needs is the fundamental obligation of a shelter regardless of the mission of the organization or the challenges involved in meeting those needs.
両方の文書は、各動物の身体的および感情的なニーズを満たすことが、組織の使命やそれらのニーズを満たすことに伴う課題に関係なく、シェルターの基本的な義務であるという基本原則を共有しています。(P1)
一言でまとめると「人間の都合に関係なく、動物の福祉を担保する」ということです。しかし後で説明しますが、新「ガイドライン」では、動物福祉のとらえ方が少し変わっています。ここが新旧の「ガイドライン」の最大の違いかもしれません。
※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022