2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※ (アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)では、Five Domains(5つの領域)という動物福祉の新しい枠組みが示されています。
「5つの自由」から「5つの領域」へ
「旧ガイドライン」では、動物福祉のFive Freedoms(5つの自由)つまり「飢えや渇きからの自由」「不快からの自由」「痛み、怪我、または病気からの自由」「通常の行動を表現する自由」「恐怖と苦痛からの自由」を基本原則としていましたが、新「ガイドライン」では、「5つの自由」を発展させたFive Domains(5つの領域)というモデルが提示されています。
「5つの自由」の限界
「5つの自由」は「否定的経験(Negative experiences)を回避する」ことに主眼が置かれています。これは動物福祉における必須事項を定義するには有効な指針ですが、動物福祉の最低基準を示しているにすぎません。例えば最低限の水と食事が与えられていれば「飢えや渇きからの自由」は満たされているかもしれませんが、食事の質を吟味したり、与え方を工夫したりすれば、さらに福祉が向上するかもしれません。もしかしたら、他の事項について多少満たされていないとしても、総合的な福祉が担保される可能性もあります。つまり「5つの自由」には「プラスの視点」と「トータルバランスの視点」が欠けているといえます。
「5つの領域」とは
そこで「ガイドライン」が示したのが「5つの領域」という新しい枠組みです。これを非常に簡単に説明すると、「栄養(Nutrition)」「環境(Environment)」「健康(Health)」「(行動の)機会(Opportunity)」の良し悪しが動物の「精神状態(Mental state)」に影響を与え、その結果として動物の全体的な福祉に影響を与えるという考え方です。「機会」というのは少々わかりにくいかもしれませんが、行動の選択権を自ら有しているか否かということです。例えば好きなタイミングで好きな場所で休憩できる状態は「肯定的経験」、常時騒音にさらされそこから逃れられないような状態は「否定的経験」といえます。
これらの「5つの領域」において、それぞれ「否定的経験」を減らしつつ「肯定的経験(Positive experiences)」を増やしていきながら、各領域間のトータルバランスも見ていこうというのが「5つの領域」の考え方です。「5つの領域」は保護動物のwell-being(精神的幸福)に着目した考え方といえるでしょう。
※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022