動物福祉のFive Domains(5つの領域)とは その3

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※ (アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)では、動物福祉の新しい枠組み「Five Domains(5つの領域)」が示されています。

「5つの領域」では動物福祉に関する2つの新しい考え方が提示されています。それは「スペクトラム」と「トータルバランス」の2つです。

 

スペクトラム

「5つの自由」は「否定的経験」の排除に着目していましたが、「5つの領域」はそれぞれの領域の福祉状態について、「ニーズが満たされた状態」と「ニーズが満たされていない状態」の間の連続した範囲(spectrum)としてとらえます。また全体的な(overall)福祉状態についても同様です。

 

トータルバランス

「5つの領域」の概念モデルが「ガイドライン」で示されています(下図、「ガイドライン」p3より引用)ので、これに基づいて説明すると、「5つの領域」すなわち「栄養(Nutrition)」「環境(Environment)」「健康(Health)」「(行動の)機会(Opportunity)」および「精神状態(Mental state)」が、それぞれその動物の福祉に影響を与えます。また他の4つの「領域」が「精神状態」に影響を与えます。それらが動物の全体的な福祉状態に影響を与え、その結果として、動物は健康と行動についての身体的状態を通じて福祉状態を示します。

もちろん各「領域」のレベルで福祉が担保されていることも大事ですが、ここで強調されているのが、個別の事象をとらえるのではなく、全体的な福祉状態を考えることの重要性です。これはどういうことかというと、例えばけがをしている猫を保護し、治療のため狭いケージに収容されている場合、当然ながらいくつかのニーズは満たされていませんが、適切な治療が施されたり、適切な人間とのふれあいがあるなど、他のニーズが満たされていることで、全体的な福祉状態が良好に保たれるかもしれません。逆に、健康な犬が十分な水や食料を与えられていたとしても、動物管理機関に長期間収容されていることによって、精神的苦痛を感じることにより全体的な福祉状態が低下するかもしれません。

 

現実的な対応

動物に「良い経験」だけを与えることができればよいのかもしれませんが、現実的にはそうはいきません。「ガイドライン」にはこう書かれています。

 

In this document, we set out to help shelters achieve positive welfare in each of these Five Domains within the necessary constraints of animal and human safety and infectious disease control.

この文書は、動物や人の安全、感染症対策という必要な制約の中で、シェルターがこの「5つの領域」のそれぞれで肯定的な福祉を達成できるようにすることを目的としています。(p3)


※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022