アニマルシェルターの個体群管理(7) 結果の計画

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※ (アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターの受入れ計画について見ていきます。

 

2.3.2 Outcome planning(結果の計画)

Every attempt must be made to locate a lost animal’s owner, including careful screening for identification and microchips, in the field and at the time of intake. 

迷子の動物の飼い主を探すために、現場や受入れ時に、個体識別やマイクロチップの慎重な審査を含め、あらゆる試みを行わなければならない。(p9)

 

In addition to prioritizing pet retention and reunification, shelters should remove barriers to local outcomes.

ペットの保持と返還を優先させることに加え、シェルターは地域の結果を阻む障害を取り除くべきである。(p9)

 

【のらぬこの解説】

ペットにとって最良の結果は、飼い主に飼い続けられることです。迷子の動物にとって最良の結果は、アニマルシェルターに入ることなく飼い主の元に戻ること、もしくはシェルターから飼い主に返還されることです。「ガイドライン」では、シェルターはペットの保持と返還を優先すべきとしています。保持や返還の際はシェルターが飼い主と直接接触しますから、マイクロチップや避妊去勢手術の必要性などの啓発のチャンスともいえます。また飼い主が手放したり、そもそも飼い主がいない動物の場合、新しい飼い主への譲渡が望ましい結果であるといえます。「ガイドライン」では、保持や返還に加え「地域内の譲渡」を「地域の結果(local outcomes)」と呼び、シェルターはその「障害を取り除く」べきとしています。「障害を取り除く」手段として、具体的に「訪問者にとって便利な開所時間」「譲渡や返還に係る手数料をできるだけ安くする」「地域に開かれた譲渡やイベント」「開かれた(inclusive)譲渡方針」などが挙げられています。

 

「開かれた譲渡方針」とは、譲渡に厳しい条件を課さないということです。その根底にあるのは、厳しい基準で新しい飼い主を審査するのではなく、マッチングや譲渡後のフォローアップなどにより、地域の飼い主を育てていこうという考え方です。緩い基準で動物を押し付け、あとは知らんぷりの無責任譲渡とは根本的に異なります。新たな飼い主を育てていくことにより、地域のペットに対する意識の底上げにつながりますし、譲渡のすそ野を広けることにもつながります。こうした地道な活動が、結果的にシェルターに入る動物の数を減らすことにつながるのです。

 

なお「ガイドライン」では、譲渡促進のために他の地域のシェルターに収容動物を移送することも有効な手段であるとしていますが、「地域協働による譲渡促進の取り組みの代わりにはならない」とクギを刺しています。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022