2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※1 (アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける個体群データの監視について見ています。
2.4 Monitoring population data(個体群データの監視)※続き
Because local capacity to support animal welfare is maximized when organizations collaborate, population level metrics are ideally monitored as a community through transparent sharing of data.
組織が協力し合うことにより、動物福祉を支援する地域の能力が最大化されるため、データの透明性のある共有を通じ、個体群レベルの指標を地域として監視することが望ましい。(p12)
Live release rates or save rates must be evaluated in the context of animal welfare and cannot be used alone as a measure of success.
ライブリリース率や生存率は、動物福祉の観点から評価する必要があり、単独で成功の指標としてはならない。(p12)
【のらぬこの解説】
Live release rates(LRR)とは、アシロマ協定※2により「一定期間内(月、年など)に何らかの結果を経験した(例えば、移動、譲渡、安楽殺。アニマルシェルター内での死亡や逸走は除く)動物のうち、同じ期間にシェルターを生きたまま離れた動物の割合」と定義されています。また単純に、一定期間中にシェルターに入ったうち、生きたまま解放された動物の割合をLRRということもあります。生存率(save rates)も同じような意味で用いられます。注意が必要なのは、これらの数値は収容動物の福祉を必ずしも反映していないという点です。例えば、ケア能力を超える動物をシェルターに押し込み、その中で動物が衰弱して死んでいったとしても、LRRには影響しません。こういった「結果」ベースの指標は組織の目標管理の一環として、同一のシェルターの経時的評価に用いるにとどめるべきです。日本の一部自治体が主張する「殺処分ゼロ」という「成果」が独り歩きすることも、同じ危険性を孕んでいることをここで指摘しておきます。
※1 Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022
※2アニマルシェルターにおける健康な犬や猫の安楽殺を廃止することを目的に、2004年にカリフォルニア州アシロマで開催された動物福祉関係者の会議のメンバーにより作製された、シェルター動物の処遇についてのガイドライン。