アニマルシェルターの施設(20) エンリッチメントスペース

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※1(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターの施設について見ています。

 

4.9 Enrichment spaces(エンリッチメントスペース)

All enclosed outdoor spaces should have double door entry points to keep animals safe and reduce the risk of escape.

動物の安全を確保し、逸走のリスクを減らすために、すべての密閉された屋外スペースには二重ドアの入り口を設けるべきである。(p19)

 

【のらぬこの解説】

「エンリッチメントスペース(enrichment spaces)」とは、アニマルシェルターにおける収容生活を「豊かにする」ことにより動物福祉を向上させるためのスペースです。ここでいう「エンリッチメントスペース」には、遊びや交流のための狭義のエンリッチスペースだけではなく、運動場(exercise spaces)や訓練場(training spaces)も含まれます。たとえ収容動物に良質の住居が提供されていたとしても、エンリッチメントスペースの提供は多くの場合有益です。また動物が小さいケージに収容されている場合や、滞在期間が1週間を超える場合などは、エンリッチメントスペースは必須です。

 

エンリッチメントスペースには屋内のプレイルームのほか、屋外の運動場やキャッテリー(屋外の猫用檻)なども含まれます。いずれの場合においても、事故や逸走の防止、感染症や寄生虫の予防については十分に配慮する必要があります。また猫の場合は、隠れ場所の提供も必要です。

 

特にエンリッチメントスペースにおける交流が感染症の原因になってしまうと、結果的に滞在期間(LOS)の延長を招き、エンリッチメントの効果を半減させてしまうことにもなりかねません。エンリッチメントスペースで交流させる動物は、生後5カ月以上で健康診断を受け、ワクチン接種・駆虫済みのものが望ましく、皮膚糸状菌症やFeLV/FIVの検査も必要です。また健康な動物が使用するたびにスペースを徹底的に消毒する必要はありませんが、排泄物はすぐに取り除き、1日1回はスペースの清掃を行う必要があります。スペースの清掃や消毒よりも、一緒に遊ばせる動物の選択が重要です。※2

 

以外に盲点なのは、スタッフの人役です。人員不足などによりスタッフの人役が限られている場合、動物をエンリッチメントスペースに移動させたり、ケージに戻したりする作業に時間を費やしてしまうと、動物を速やかに譲渡するというシェルターの本来活動に支障をきたす可能性があるので注意が必要です。※2

 

※1 Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022

 

※2 https://www.sheltermedicine.com/library/resources/?r=facility-design-and-animal-housing#Plumbing)