2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターの衛生管理について見ていきましょう。
5. Sanitation(衛生)
5.1 General(一般事項)
【のらぬこの解説】
感染症の予防は、アニマルシェルターにおける予防医学の肝ともいえます。感染症のリスクを最小限に抑える上で、シェルターの衛生的な環境を維持することは不可欠な要素です。そしてそれは結果的に収容動物の健康と福祉をサポートします。
シェルターには様々な動物がやって来ます。その中には感染症に罹患している動物がいるかもしれませんし、たとえ発症していなくても病原体を排出している動物もいるかもしれません。一方、衰弱や幼齢、老齢などで抵抗力が低くなっている動物もいるかもしれません。多くの動物はおそらくワクチン接種も受けていません。また動物は床を転げまわり、自らの体をなめ、その際に様々な微生物を体に入れます。そしてシェルターのスタッフはその動物たちを移動や拘束、愛情表現などのために抱きしめます。油断していると、手や衣類を介して他の動物に病原体を移します。
つまりシェルターは、感染症のリスクが極めて高い場所であるといえます。もちろんペットを飼うにも相応の衛生管理が必要ですが、シェルターにおける衛生管理はそれよりも数段高い警戒レベルが要求されると認識しておいたほうがよいかもしれません。
5.2 Definitions(定義)
【のらぬこの解説】
この項では、用語の定義について解説されています。
Cleaning(洗浄):Cleaningは「きれいにする行為」全般を指しますので「清掃」も含まれますが、この文脈では「洗浄」の意味のようです。つまり、尿、糞便、生ゴミ、髪の毛、体液、その他環境中の汚れを手作業で除去することを指します。特に有機物が残存していると消毒を妨げることがあるので、洗浄剤を用いて洗浄する必要があります。
Disinfection(消毒):洗浄後の表面に薬剤を一定時間作用させ、病原体のほとんどを死滅させることを指します。
Sanitation(衛生):洗浄と消毒の組み合わせ。ただし洗浄と消毒の両方に使用できる薬剤を用いたとしても、洗浄と消毒は別の手順ですので注意が必要です。
Sterilization(滅菌): 滅菌とは、芽胞を含むすべての病原体(ウイルス、細菌、真菌など)を破壊すること。一般的には手術器具など無菌処置に必要な器具にのみ行われます。
※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022