2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターの衛生管理について見ています。
5.3 Sanitation practices(衛生慣行) ※続き
使用する薬剤
Disinfectants used in animal areas must be effective against non-enveloped viruses, such as parvovirus, panleukopenia, and calicivirus.
動物が収容されるエリアで使用される消毒剤は、パルボウイルス、汎白血球減少症、カリシウイルスなどのエンベロープを持たないウイルスに対して効果的でなければならない。(p23)
【のらぬこの解説】
エンベロープとは、ウイルスの表面を包んでいる「脂肪の膜」のことです。コロナウイルスやインフルエンザウイルスなど、私たちにとってなじみが深いウイルスはエンベロープを持っています。エンベロープは脂肪の膜ですから、アルコールによって壊れてしまい、結果的にウイルスの感染力が失われます。また環境中で長時間生存することができません。
しかしパルボウイルスやカリシウイルスといった、アニマルシェルターでしばしば問題になるウイルスはエンベロープを持っていません。こういったウイルスはもともと「脂肪の膜」を持っていませんから、
アルコールや酸に強く、凍結や乾燥にも強く環境中で長時間生き延びるという特性を持っています。また、加熱(60℃・30分)による処理でも、感染性は維持されます。 なお、熱で不活化するには、85℃~90℃で90秒以上加熱する必要があります。
つまり一般的に消毒目的で用いられている、アルコールや逆性石鹸といった消毒剤はアニマルシェルターには不向きということです。「ガイドライン」では、加速化過酸化水素(accelerated hydrogen peroxide)やペルオキシ一硫酸カリウム(potassium peroxymonosulfate)、塩素剤(bleach products)といった消毒剤が推奨されています。これらの消毒剤は皮膚糸状菌などの真菌(カビ)にも有効です。
消毒の代替手段
Alternative methods of disinfection such as ultraviolet light, steam, freezing, and air filtration systems must not be relied on as the sole means of sanitation in shelters.
シェルター内の唯一の衛生手段として、紫外線、蒸気、冷凍、空気ろ過システムなどの代替消毒方法に頼ってはならない。(p24)
【のらぬこの解説】
これらの手段は補助的に用いられるべきであり、これらだけに頼ることはできません。
※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022