アニマルシェルターの獣医療(2)  基本的な考え方 その2

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける獣医療について見ています。

 

6.1 General(一般事項) ※続き

 

群管理と個体管理のバランス

Individual animal health must be addressed within the balance of decisions and practices that support overall population health. 

個々の動物の健康は、全体的な集団の健康をサポートする決定と実践のバランスの中で取り組まなければならない。(p29)

 

【のらぬこの解説】

きわめて婉曲的な表現ですが、要するに、シェルターの動物の健康管理は群管理を基本とし、個体ごとの健康管理についてはあくまでもその文脈の中で考えろということです。一般の動物病院における獣医療においては個々の動物の治療に専念すればよいのですが、シェルターメディスンにおいては個々の動物の健康に留意しながら、集団としての健康を保持しなければなりません。例えば非感染性の慢性疾患に罹患している特定の動物のケアに注力することにより、シェルター全体の感染対策がおろそかになるようなことがあってはなりません。

 

個体群管理の項でも触れられていますが、獣医療に関する個体群の統計(病気の発生率や転帰など)を病気の予防に活かしていく必要があります。以下のような事態が発生している場合、シェルターに何らかの問題があると考えられます。

・収容後に動物の福祉や健康が悪化している

・病気やけがの動物が、適切な処置を受けず放置されている

・感染症の大規模発生

・シェルターにおいて罹患した疾病やけがを原因とする死亡や安楽殺

・慢性的に病気への罹患率が高い

 

治療方針の策定

Shelters should have a protocol for making decisions about which animals and conditions to treat, and which animals and conditions they cannot treat.

シェルターは、どの動物や状態を治療するか、どの動物や状態を治療できないかを決定するための手順を持つべきである。(p29)

 

【のらぬこの解説】

シェルターでできる獣医療とできない獣医療をあらかじめはっきりさせておくことにより、動物の処置に関する意思決定を速やかに行うことができます。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022