2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける獣医療について見ています。
6.4.2 Core vaccines in shelters(シェルターのコアワクチン)
For all core vaccines except rabies, shelters should use modified live virus or recombinant vaccines (MLV) rather than killed products because they provide a faster immune response.
狂犬病を除くすべてのコアワクチンについて、シェルターは、免疫応答がより速いため、不活化ワクチンではなく、弱毒化生ワクチンまたは組み換えワクチン(MLV)を使用すべきである。(p32)
Feral cats should receive all core vaccines at the time of spay-neuter, regardless of age.
野良猫は年齢に関係なく、避妊去勢手術時にすべてのコアワクチンを接種するべきである。(p32)
【のらぬこの解説】
コアワクチンとは、アニマルシェルターに収容される動物に必須とされるワクチンです。シェルターは感染症のリスクが高いので、速やかに免疫を獲得させる必要があります。不活化ワクチンは病原体を殺して作ったワクチンで、安全ですが免疫がつくのに1か月くらいかかるので、シェルターでの使用には推奨されません。生ワクチン(MLV)は病原体を弱らせて作ったワクチンで、早く免疫がつくのでシェルターではよく用いられています。
シェルターにおいては、たとえ幼齢、妊娠中、授乳中、またFeLVやFIVの感染猫といった、生ワクチン接種によるリスクが高い動物であってもコアワクチンを接種します。ここは一般の獣医療と異なる点です。もちろんリスクはありますが、感染予防のメリットが上回るとされています。
「ガイドライン」によると、シェルターにおける犬のコアワクチンは「DAPP」(ジステンパー、伝染性肝炎、パルボウイルス、パラインフルエンザの混合ワクチン)および「Bord/PI」(ボルデテラ、パラインフルエンザの鼻腔内ワクチン)とされています。ボルデテラのワクチンは、一般的には非コアワクチンとされていますが、シェルターでしばしば問題になるケンネルコフ(犬かぜ)の原因菌のひとつであるため、シェルターではコアワクチンとされています。
また猫のコアワクチンは「FVRCP」(猫ウイルス性鼻気管炎、カリシウイルス、汎白血球減少症の混合ワクチン)とされています。また、米国においては犬猫を問わず、狂犬病ワクチンがコアワクチンとされています(狂犬病ワクチンについては次回詳しく説明します)。
なおTNRやRTFなど、避妊去勢手術後にリターンを予定している野良猫については、ワクチン接種のチャンスは手術時しかありませんから、手術の際に接種します。
※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022