アニマルシェルターの獣医療(17)  疼痛管理

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける獣医療について見ています。

 

6.5.1 Pain management(疼痛管理)

 

疼痛管理の重要性

Pain must be recognized and treated to alleviate suffering. 

痛みを軽減するには、痛みを認識し、処置しなければならない。(p33)

 

Failure to provide treatment for pain is unacceptable.

痛みの処置を行わないことは許されない。(p33)

 

【のらぬこの解説】

アニマルシェルターには、病気やけがの動物も持ち込まれます。そしてその多くが急性または慢性の「痛み」を抱えています。痛みを放置することは、身体的および精神的なさまざまな健康上の問題を引き起こす、動物福祉上重大な懸念です。疼痛管理はシェルターにおける重要な獣医療であるといえます。手を尽くしても疼痛を緩和することが困難な場合、安楽殺も検討する必要があります。

動物は自分で「痛い」と訴えることができませんから、痛みを探知するためには痛みに反応する動物の行動について知ることが必要です。また人間に痛みをもたらすような状態であれば、動物にも痛みをもたらすと推定することができます。スタッフは動物に痛みの兆候が認められれば、速やかに獣医師の指示を仰ぐべきです。

 

外科処置時の疼痛管理

Protocols for the treatment of painful conditions should be created by a veterinarian. 

痛みを伴う状態の処置のための手順は、獣医師が作成するべきである。(p33)

 

Pain control provided must be of an appropriate strength and duration to preempt or relieve pain. 

提供される疼痛管理は、痛みを先取りまたは軽減するために、適切な強度と期間でなければならない。(p33)

 

When pain can be anticipated, as with surgical procedures, pain control should be provided before the painful event. 

外科的処置のように痛みが予想される場合は、痛みを伴う処置の前に痛みをコントロールするべきである。(p33)

 

The use of controlled drugs must be supervised by a veterinarian as required by regulatory statutes.

規制薬物の使用は、規制法令に基づき、獣医師が監督しなければならない。(p33)

 

【のらぬこの解説】

避妊去勢手術など、シェルターで外科処置を行う場合にも疼痛管理が必要です。外科処置の際の疼痛管理の基本は「先取り鎮痛」と「マルチモーダル鎮痛」ですが、専門的なので割愛します。

 

鎮痛作用の監視と対応

Animals must be reassessed frequently to determine the efficacy of pain relief provided. 

与えられた鎮痛効果を判断するため、動物を頻繁に再評価しなければならない。(p33)

 

When the pain relief provided is inadequate, emergency medical care must be provided.

提供される鎮痛が不十分な場合は、救急医療を提供しなければならない。(p34)

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022