アニマルシェルターの外科手術(1)  一般事項

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける外科手術について見ていきましょう。

 

7. Shelter Surgery(シェルター手術)

 

7.1 General(一般事項)

It is unacceptable for organizations to allow shelter animals to breed. 

組織がシェルターの動物を繁殖させることは許されない。(p38)

 

When animals that are already pregnant are admitted, shelters should prevent birth from occurring in the facility, instead seeking alternatives such as spay or foster care. In almost all cases, it is safe and humane to spay dogs and cats at any stage of pregnancy. 

すでに妊娠している動物を受入れた場合、シェルターは施設内での出産を防止し、代わりに避妊手術や預かりボランティアなどの代替手段を探すべきである。(p38)

 

【のらぬこの解説】

この項は旧「ガイドライン」では「Spay-Neuter(避妊去勢手術)」という見出しでした。米国においては、近年アニマルシェルターにおいても外科手術や歯科処置が実施されることが珍しくなくなったため、新しい「ガイドライン」では「シェルター手術」という見出しに変わりました。

しかし、シェルターが実施する外科手術のメインが避妊去勢手術であることに変わりはありません。シェルターが避妊去勢手術を実施する目的は、犬や猫の過剰繁殖を防止し、将来的にシェルターが受け入れなければならない動物の数を減らすことです。ですので、その対象はシェルターに収容されている動物に限らず、地域のペットや野良猫も含まれます。

当然ですが、シェルターで動物を繁殖させることは許されません。シェルターで受入れた動物にすぐに避妊去勢手術を実施することができない場合(多くの場合そうでしょうが)、繁殖可能な年齢の動物は個別に、または雌雄を分けて収容し、繁殖を防止しなければなりません。

シェルターが妊娠中の犬や猫を受け入れた場合、出産を許可するかどうかはシェルターの方針に委ねられます。そこには、生まれてきた子犬や子猫をどうするかという明確な方針がなければなりません。単に「かわいそう」という理由で出産を許可することは、「かわいそう」な動物を増やしてしまう結果になりかねません。避妊手術(つまり堕胎)もひとつの選択肢となります。AVMA(米国獣医師会)の安楽殺ガイドライン(2020)によると、胎仔には意識がないため、妊娠末期であっても胎仔ごと子宮を取り出した後に1時間以上子宮を閉じたままにしておけば、人道的に死に至るとされています(子宮を開いて胎仔を取り出してしまうと、早産と同じ状態になり意識が生じる可能性があります)。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022