アニマルシェルターの外科手術(3)  避妊去勢手術 その2

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける外科手術について見ています。

 

7.2 Spay-Neuter(避妊去勢手術) ※続き

The final decision regarding acceptance of any patient for surgery must be made by a veterinarian based on a physical examination, available medical history, and capacity of the surgical team. 

患者の手術の受入れに関する最終決定は、身体検査、利用可能な病歴、および手術チームの能力に基づいて獣医師が行わなければならない。(p38)

 

Granting an exemption from a spay-neuter requirement should only occur when performing the procedure puts the patient at significant risk. 

避妊去勢手術の免除は、手術を行うことで患者が重大なリスクにさらされる場合にのみ行われるべきである。(p38)

 

When considering sterilizing patients with medical conditions, veterinarians must weigh the benefits and risks to that animal, others receiving surgery that day, the shelter population, and the community population. 

病状がある患者の避妊去勢手術を検討する場合、獣医師はその動物、その日に手術を受ける他の動物、シェルターの個体群、地域の個体群に対する利益とリスクを考慮しなければならない。(p38)

 

【のらぬこの解説】

避妊去勢手術自体は比較的侵襲性が低く、危険性が少ない手術ではありますが、リスクはゼロではありません。また全身麻酔をかけるため、麻酔事故のリスクもあります。避妊去勢手術は緊急に実施しないと命や今後の健康に関わるような手術ではありませんから、特に失敗は許されません。ペットの診療を行う一般の動物病院においては、リスクを限りなくゼロに近づけるために入念に手術前検査を行い、動物に少しでも健康上の懸念があれば手術を延期します。

しかしシェルターにおける避妊去勢手術は実施を前提とし、軽度の感染症(猫かぜなど)などの健康上の懸念があったとしても、獣医師が手術のリスクが低いと判断すれば手術が実施されます。これはシェルターに収容された動物の命を軽く見ているわけではなく、リスクのとらえ方の違いです。手術を実施することによる動物群(シェルター内および地域)にもたらす利益が、個別の動物の健康上の懸念を上回るのであれば、手術を実施すべきと考えるわけです。もちろん、健康上の懸念が利益を上回ると獣医師が判断した場合、手術は延期または中止されます。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022