アニマルシェルターの外科手術(6)  歯科処置

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける外科手術について見ています。

 

7.3.1 Dentistry(歯科)

Medical records should document the dental exam, diagnostics, and treatments performed.

医療記録には、歯科検査、診断、および実施された治療を記録するべきである。(p39)

 

Non-anesthetic dental probing, scaling, and polishing is unacceptable. 

無麻酔でプロービング、スケーリング、およびポリッシングを行うことは許されない。(p38)

 

Ideally, intraoral radiographs are taken in patients undergoing dental surgery. 

歯科手術を受ける患者には口腔内X線撮影を行うことが望ましい。(p39)

 

Dental procedures, including radiology, must be performed by appropriately trained and credentialed individuals based on state and local regulations. 

X線撮影を含む歯科処置は、州および地域の規制に基づき、適切な訓練を受け、資格を持った個人が実施しなければならない。(p39)

 

【のらぬこの解説】

ペットの高齢化に伴い、米国のアニマルシェルターにおける歯科処置はますます普及しつつあります。とはいえ、すべてのシェルターが歯科処置に係るリソースを有しているわけではありません。その場合は提携動物病院や譲渡先などと連携し、動物がしかるべき処置を受けられるよう手配する必要があります。

動物の歯科処置は、たとえプロービング(歯周ポケットの測定)やスケーリング(プラークと歯石の除去)、ポリッシング(歯面研磨)といった、人間の歯科治療では無麻酔で行われるような処置であっても、無麻酔で実施することは許されません。無麻酔の場合、十分に口腔内を観察することができず病変部を見逃す可能性がありますし、処置のための拘束は動物とスタッフの双方に大きなストレスを与えます。また器具や咬傷による負傷のおそれもあります。

もし可能であれば、X線撮影で病変を確実に把握することができます。しかし多くのシェルターはそのような設備を有していませんから、丁寧に口腔内を検査する必要があります。歯の病気は動物福祉に大きな影響を与えるため、口腔内の痛みへの対処は非常に重要です。

なお、日本においてはX線撮影の設備や実施方法について「獣医療法」で規定されていますので、その規定を順守する必要があります。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022