アニマルシェルターの行動学(11)  動物の訓練

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける動物の行動学とメンタルヘルスについて見ています。

 

9.7.1 Animal training(動物の訓練)

Animal training must be based on Least Intrusive Minimally Aversive principles and the Humane Hierarchy of Behavior Change in accordance with current professional guidelines. 

動物の訓練は、最新の専門家のガイドラインに従い、LIMAの原則と行動変容の人道的手順の階層に基づいていなければならない。(p47)

 

Except when safety is an imminent concern, personnel should not use anything other than mildly aversive training methods. 

安全が差し迫った懸念事項である場合を除き、職員は穏やかな嫌悪を与える訓練法以外を使用すべきではない。(p47)

 

Ideally, animal trainers and behavior consultants are certified or have graduated from a program that assesses knowledge and skills.

アニマルトレーナーと行動コンサルタントは、知識とスキルを評価するプログラムの認定を受けているか修了していることが望ましい。(p47)

 

【のらぬこの解説】

Least Intrusive、Minimally Aversive (LIMA)とは、最小限の介入で嫌悪感が少ない方法で行うという、動物の訓練の方針を指します。またHumane Hierarchyとは「人道的な手順の階層」のことで、動物の訓練を人道的に進めるための手順を指します。いずれも米国においては動物の訓練の原則とされています。

「嫌悪感が少ない方法」とは、言い換えれば「正の強化」を用いるということです。「オペラント条件付け」(詳しくは後述します)を用いた訓練法においては、動物が示した行動に対して報酬や罰を与え、その行動の出現率をコントロールしていきます。そのやり方には次の4つがあります。

 

正の強化:好ましい行動に報酬を与えることで、その行動の出現率を増加させる

正の罰:好ましくない行動に罰を与えることで、その行動の出現率を低下させる

負の罰:好ましくない行動を示すと報酬を除去する(例えばおやつを抜く)ことで、その行動の出現率を低下させる

負の強化:好ましい行動を示すと罰を除去する(または罰を回避できる)ことで、その行動の出現率を増加させる

 

「ガイドライン」では罰を用いた訓練は推奨されていませんが、訓練に体罰以外の罰を用いることは一般的に認められています。ただし罰を用いた訓練は高度な技術が必要なため、専門家のみが実施するべきでしょう。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022