アニマルシェルターの行動学(12)  行動修正 その1

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける動物の行動学とメンタルヘルスについて見ています。

 

9.7.2 Behavior modification(行動修正)

Behavior modification protocols must incorporate scientific principles of animal behavior and learning, such as classical conditioning, operant conditioning, and systematic desensitization and counterconditioning. 

行動修正の手順には、古典的条件付け、オペラント条件付け、系統的脱感作および拮抗条件付けなど、動物の行動と学習の科学的原則を組み込まなければならない。(p47)

 

【のらぬこの解説】

ここで記述されている学習理論について、簡単に説明しておきます。

 

古典的条件付け

学習理論の基本で、「パブロフの犬」で有名なアレです。犬にゴハンをあげる時に音を鳴らすことを繰り返すと(ゴハンと音の対提示)、犬は音を聞いただけで唾液を出すようになります。本来、音とゴハンは関係ありませんから、学習によってゴハンと音が関連付けられたわけです。古典的条件付けは、例えば嫌な拘束の後におやつをあげるといったことを繰り返し、「拘束は嫌だけど後でいいことがある」と学習させるといった使い方をします。

 

オペラント条件付け

ソーンダイクの「空腹の猫実験」で検証された学習理論です。中から何らかの操作をすれば扉を開けることができる「問題箱」に空腹の猫を閉じ込め、外にゴハンを置いておくと、猫は試行錯誤のうえ扉を開けます。これを繰り返すと、猫はすぐに扉を開くことができるようになります。つまり自らの行動(扉を開ける)が報酬(ゴハン)をもたらす事を学習し、扉の開け方を習熟したのです。オペラント条件付けは、好ましい行動を示したときにごほうびをあげることで、好ましい行動の出現率を高めるといった使い方をします。

 

系統的脱感作

音が鳴ると唾液を出すように学習させた「パブロフの犬」に、音を鳴らすだけでゴハンをあげないということを繰り返すと、そのうち犬は音に反応しなくなります。これは学習効果が消失することを意味し、「消去」と呼ばれています。学習理論において、恐怖反応はある事象と嫌な体験が対提示され、古典的条件付けによって学習されたものと考えます。つまり恐怖刺激を与え、その後何も起こらないという体験を繰り返すと、学習された恐怖は消去されます。この理論を応用した行動療法が系統的脱感作です。

 

拮抗条件付け

学習された恐怖反応を「消去」するのではなく、新たな古典的条件付けによって「上書き」するのが拮抗条件付けです。つまり、恐怖反応を引き起こす刺激を与えて、そのあとにごほうびをあげるということを繰り返せば、恐怖刺激は楽しみな刺激に変わります。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022