アニマルシェルターの行動学(16)  攻撃性を示す動物

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける動物の行動学とメンタルヘルスについて見ています。

 

9.8 Risk assessment of animals displaying aggressive behavior(攻撃的な行動を示す動物のリスク評価)

Shelters must promptly respond to behavior that poses a significant safety risk. 

シェルターは、重大な安全上のリスクをもたらす行動に迅速に対応しなければならない。(p48)

 

Shelters must have protocols and criteria in place that attempt to identify and manage animals at high risk of causing harm to shelter personnel, the public, or other domesticated animals.

シェルターは、シェルター職員、公衆、または他の飼育動物に害を及ぼす危険性の高い動物を特定して管理するための手順と基準を整備しなければならない。(p49)

 

【のらぬこの解説】

シェルターに収容されている犬や猫が人間や他の動物、または自身を傷つける可能性がある行動を示している場合、その程度や発現可能性を評価することが重要です。評価に際しては行動評価の過程で得られた行動に関するデータを参照しますが、攻撃性を評価するにはこのような事項を見ていきます。

 

・動物の身体的特徴や気質、健康状態

・攻撃行動の詳細(危険性、持続性、頻度、予測可能性、発生数など)

・攻撃行動のきっかけは何か、またそれは管理可能か

・攻撃行動が発生する特定の環境はあるか、またその環境は管理可能か

・以前の介入(治療や環境改善)に反応しているかどうか

 

譲渡に際しては、飼い主や周辺住民の安全や攻撃行動発現のリスク、そしてそのリスクが管理可能か否かといった観点で慎重に判断します。リスク管理が不可能ということになれば、無理な譲渡は譲渡先と動物の双方のQOL(生活の質)を低下させる「誰得」状態を招きかねないので、安楽殺も検討されることになります。

動物のリスク評価を十分に行い、リスクを完全に管理できることを前提に譲渡し、それが譲渡先において完全に実行されたとしても、あらゆるシチュエーションにおける突発的な事故を完全に防ぐことはできません。譲渡後のフォローアップによってその後の動物の行動について把握することは、リスク評価の精度を上げることにもつながります。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022