アニマルシェルターの行動学(17)  譲渡等に際しての考慮事項

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける動物の行動学とメンタルヘルスについて見ています。

 

9.9 Rehoming considerations(譲渡等に際しての考慮事項)

Adopters and foster caregivers must be counseled on providing safe, gradual, and controlled introductions of shelter animals to children and resident pets. 

動物の譲渡を受けた人や預かりボランティアは、シェルターの動物を子供や先住のペットに安全に、段階的に、管理された形で紹介するように助言を受けなければならない。(p49)

 

Foster caregivers and prospective adopters should be allowed to adopt or foster without bringing their own animals to the shelter. 

預かりボランティアや動物の引取り希望者は、自分が飼っている動物をシェルターに連れてこなくても譲渡または養育できるようにすべきである。(p49)

 

A record of the animal’s behavior should be provided in hardcopy or electronic form with the animal at the time of transfer, foster, or adoption. 

動物の行動の記録は、移送、里親、または譲渡の時点で、複写または電子データで動物とともに提供すべきである。(p49)

 

【のらぬこの解説】

Rehomingとは、譲渡、預かりボランティア、他のシェルターや保護団体への移送などをひっくるめた概念です。つまりシェルターの動物を他者に引き継ぐわけですから、身体的医療記録とともに行動記録も同時に引き継がなければなりません。譲渡後の動物に行動上の問題が生じた場合、シェルターがその対処に関してアドバイスすることで動物が家庭に留まることができ、シェルターへの再収容を防ぐことができます。そのためには譲渡後のフォローアップが欠かせません。

譲渡等の際に問題となるのは、先住ペットとの関係です。私もよく「相性を確認したいので自分のペットを連れて行ってもよいか」との相談を受けますが、ペットをアニマルシェルターに連れていくことはいろいろな意味で推奨されません。譲渡対象の動物については、先住ペットとの関係性を推測できる程度の行動情報を譲り受け希望者に提示し、あとは本人に判断してもらうのがよいでしょう。お試し期間(トライアル)を設けるという手もありますが、トライアル中の動物の管理責任がしばしば問題になるため、責任の所在について書面にて確認しておく必要があります(特に訴訟社会の米国では頭の痛い問題です)。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022