2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける動物の安楽殺について見ていきましょう。
10. Euthanasia(安楽殺)
10.1 General(一般事項)
安楽殺の原則
All animals and people must be treated with respect during the euthanasia process.
すべての動物と人は、安楽殺の過程で敬意を持って扱われなければならない。(p52)
The euthanasia process must be as free from pain, fear, anxiety, and distress as possible.
安楽殺の過程は、痛み、恐怖、不安、苦痛からできるだけ自由でなければならない。(p52)
【のらぬこの解説】
安楽殺は動物福祉や公衆衛生などを担保するために必要な獣医療です。特にアニマルシェルターは、病気やけがで苦しんでいる動物や、攻撃性が強く飼い主が手放した動物など、安楽殺が検討される動物が収容される場所です。また米国においてはシェルターがペットの安楽殺を無料、または安価で実施するサービスを提供したりもしています。
安楽殺は人間の手によって動物の命を絶つことですから、その実施に際しては動物に苦痛を与えてはなりません。また少なくとも動物に意識がある間は、動物を人道的に扱わなければなりません。そして死体は丁重に扱われなければなりません。一方、安楽殺を実施する職員の心身の健康についても十分な配慮が必要です。安楽殺を実施する人間にかかる精神的ストレスは計り知れません。「ガイドライン」では、これらのことを総合して「敬意(respect)」と表現しています。
安楽殺の手順の策定
To ensure euthanasia practices are suitable for each organization and the animals they serve, a veterinarian with appropriate training and expertise for the species involved should be consulted when establishing euthanasia protocols.
安楽殺の実施が各組織と彼らがサービスを提供する動物に適していることを確認するために、安楽殺の手順を策定する際に、関連する種に関する適切な訓練と専門知識を持つ獣医師に相談するべきである。(p52)
【のらぬこの解説】
安楽殺を真に人道的に実施するには、相応の知識とスキルが必要です。また手順の妥当性については専門家の意見が必要です。
安楽殺の方法
Agents and methods deemed unacceptable in the AVMA Guidelines for the Euthanasia of Animals are to use in shelters.
「動物の安楽殺に関する AVMA ガイドライン」で「許されない」とされている薬剤や方法を、シェルターで使用することは許されない。(p52)
【のらぬこの解説】
AVMA(米国獣医師会)の「安楽殺ガイドライン」(最近日本語版も出版されましたが、原文はAVMAのホームページにて無料で公開されています)で「unacceptable(許されない)」とされている方法は、シェルターにおける安楽殺に用いてはなりません。
一斉安楽殺
Depopulation must only be used as a last resort when all other methods to address the situation have been exhausted.
Depopulation(一斉安楽殺)は、状況に対処するための他のすべての方法が使い果たされた場合にのみ、最後の手段として使用しなければならない。(p52)
※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022