アニマルシェルターの安楽殺(3)  安楽殺の手順 その2

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける動物の安楽殺について見ています。

 

10.2 Euthanasia process(安楽殺の手順) ※続き

 

法的要件

It is unacceptable to euthanize an animal without verifying legal eligibility. 

法的適格性を確認せずに、動物を安楽殺することは許されない。(p52)

 

【のらぬこの解説】

「法的適格性」とは、シェルターが安楽殺を実施する法的要件を満たしているか否かです。所有者が存在するペットを所有者の同意を得ずに安楽殺すると、日本においては「器物損壊罪」に問われます。しかし動物が苦しんでいて、苦痛を取り除く手段が安楽殺しかないと獣医師が判断した場合においては、民法上の「事務管理」に該当し、飼い主の同意がなくても安楽殺を実施できます。つまりシェルターが「法的適格性」を有するのは次の3つの場合です。

 

・シェルターが動物の所有者である、または法による定めがある場合

・動物の所有者から安楽殺の同意を得ている場合

・獣医学的根拠により、苦痛の除去のために安楽殺を実施せざるを得ないと判断した場合

 

「法による定めがある」とはどういうことかというと、例えば日本の「狂犬病予防法」では、保健所等に抑留された犬は飼い主の有無に関わらず、3日間(公示期間2日+1日)経過すれば「処分」できると規定されています。ここでいう「処分」には譲渡も含まれますが、殺処分を選択することも可能とされています。

猫にはそのような規定はありませんから、所有者不明の猫は遺失物法第10条の規定に基づき、少なくとも「警察署長による公告の日から2週間」経過したのちでなければ「処分」はできないはずです。自治体によっては犬と同様の公示期間を設けてそれを過ぎれば「処分」しているところもありますが、この手続きが法的に正しいかどうかは不明瞭です。

 

死亡の確認

After the euthanasia procedure, death must be verified by trained staff before disposing of the animal’s body.

安楽殺の手順の後、動物の死体を処分する前に、訓練を受けたスタッフが死亡を確認しなければならない。(p52)

 

【のらぬこの解説】

安楽殺実行後は死体の処分の前に、動物が完全に死亡していることを確認しなければなりません。死亡の確認は「呼吸が止まっている」といった単独の事項で判断するのではなく、「心臓の停止」「呼吸の停止」「瞬目反射の欠如」「つま先をつねっても無反応」などから総合的に判断します。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022