アニマルシェルターの安楽殺(9)  人的考慮事項

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターにおける動物の安楽殺について見ています。

 

10.4 Personnel considerations(人的考慮事項)

 

資格要件

Personnel performing euthanasia must be appropriately trained and maintain all necessary certification as required by state or local regulations.

安楽殺を行う職員は、適切な訓練を受け、州または地方の規制で要求されるすべての必要な資格を維持しなければならない。(p53)

 

【のらぬこの解説】

安楽殺は獣医療ですから、実施主体は基本的に獣医師です。しかし米国においては州にもよりますが、獣医看護師や行政担当者などであっても、一定の研修を修了すれば規制薬物を用いて動物の安楽殺を実施することができます。日本にはそのような制度はありませんから、動物管理機関で実施される安楽殺は獣医師である職員、またはその指示により実施されています。

 

職員のメンタルヘルス

The safety and well-being of personnel must be incorporated into euthanasia protocols and policy. 

職員の安全と健康は、安楽殺の手順と方針に組み込まれなければならない。(p53)

 

Because euthanasia is an important factor in the compassion fatigue, moral distress, and work-related strain reported by veterinarians and shelter staff, systems must be in place to prevent, recognize, and address fatigue and distress related to euthanasia in shelter personnel. 

安楽殺は、獣医師やシェルターのスタッフが報告する共感疲労、精神的損傷、および仕事関連のストレスの重要な要因であるため、シェルターのスタッフの安楽殺に関連する疲労と苦痛を防止、認識、対処するためのシステムを整備しなければならない。(p53)

 

Euthanasia decision-making must occur through a transparent process that lessens the decision-making burden on any one individual. 

安楽殺の意思決定は、個人の意思決定の負担を軽減する透明な過程を通じて行われなければならない。(p53)

 

【のらぬこの解説】

安楽殺はアニマルシェルターの職員などにも精神的負担を与えます。それは安楽殺を実施する職員だけではなく、安楽殺の決定に関わった職員、そしてその動物の世話をしていた職員など多数の職員にわたります。安楽殺実施者への精神的サポートはもちろんですが、安楽殺の決定を特定個人に委ねない、安楽殺に関する情報を内部でシェアするといった配慮が必要です。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022