アニマルシェルターの公衆衛生(6)  ヒトの狂犬病

2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターの公衆衛生について見ています。

 

13.3.3 Biological hazards(生物学的危険) ※続き

 

Human rabies exposure(ヒトの狂犬病曝露)

 

法的措置

To allow for appropriate follow-up by public health authorities, shelters must follow regulations for reporting animal bites to humans. 

公衆衛生担当部局による適切なフォローアップを可能にするために、シェルターは動物による人への咬傷を報告するための規則に従わなければならない。(p63)

 

At intake, shelter personnel must ask owners or finders if the animal being admitted has bitten anyone within the past 10 days. 

受入れ時に、シェルターの職員は、受入れようとしている動物が過去 10 日以内に誰かを咬んだことがあるかどうかを所有者または発見者に尋ねなければならない。(p63)

 

Because aggression may be a symptom of rabies, animals who have bitten a human must be managed according to state and local regulations, including quarantine of the animal or euthanasia for rabies testing when required. 

攻撃性は狂犬病の症状である可能性があるため、人間を咬んだ動物は、必要に応じて狂犬病検査のための動物の検疫または安楽殺を含む、州および地方の規制に従って管理しなければならない。(p63)

 

【のらぬこの解説】

日本における狂犬病に関する法令は「狂犬病予防法」ですが、犬が人を咬んだ際の届出については規定されていません。それを規定しているのは各都道府県の条例です。自治体によって異なりますが、通常犬が人(自治体によっては動物も)を咬んだ時には、最寄りの保健所に届出ることになっています。そしてその自治体の狂犬病予防員(獣医師免許を持つ職員)が2週間、犬の検診を行います。狂犬病を発症し、唾液の中にウイルスを排出している犬は、おおむね10日以内に死亡します。つまり2週間以上犬が生存しているということは、その犬は狂犬病ではないことを意味します。検診中に犬が死亡したり、狂犬病を疑う症状を示した場合は脳の組織検査を行い、狂犬病の確定診断を行います。それと同時に、咬まれた人に発症を防止するワクチンの接種を行います。人間の場合、狂犬病の潜伏期間は咬まれてから数か月~数年といわれていますから、これでも間に合うわけです。

 

予防ワクチンの接種

Because the consequences of rabies exposure are deadly, personnel who routinely work with animals should receive pre-exposure vaccinations against rabies in accordance with the current recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices.

狂犬病への曝露の結果は致命的であるため、日常的に動物を扱う職員は、予防接種に関する諮問委員会の現在の勧告に従い、狂犬病に対する曝露前のワクチン接種を受けるべきである。(p63)

 

【のらぬこの解説】

日本国内で狂犬病に感染するリスクは限りなくゼロに近いので、あえてワクチンを接種する必要はありませんが、海外で動物保護活動を行う際にはワクチン接種を強く推奨します。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022