2022年に改訂された、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターの公衆衛生について見ています。
13.3.3 Biological hazards(生物学的危険) ※続き
Antimicrobial resistance and emerging pathogens(薬剤耐性菌と新興病原体)
Routinely using antimicrobials to prevent infection in healthy animals is unacceptable.
健康な動物の感染を防ぐために抗菌薬を日常的に使用することは許されない。(p64)
Antimicrobial use must be tailored to appropriate clinical conditions, used judiciously, and evaluated for therapeutic effect.
抗菌薬の使用は、適切な臨床状態に合わせて調整し、慎重に使用し、治療効果を評価しなければならない。(p64)
【のらぬこの解説】
薬剤耐性菌の問題は、One Healthの重要なテーマのひとつです。薬剤耐性菌とは特定の抗生物質(抗菌剤)が効かない菌のことで、抗生物質の安直な使用が原因とされています。人医領域でウイルス性のかぜの患者に抗生物質を処方するような行為が問題となっていますが、獣医領域では予防的に抗生物質を用いる行為が日常的に行われていて、これもまた問題になっています。そのため「ガイドライン」では抗生物質の安易な予防的使用にクギを刺しているのです。アニマルシェルターの動物に抗生物質を処方する際には、その疾患に有効な抗生物質を最低限使用することが求められます。またシェルター内の動物の健康を保っていれば、抗生物質を使用する必要はそもそもありません。
新興感染症
Because shelter populations can be sentinels for emerging diseases, animal shelters should monitor their populations for signs of unusual or severe disease.
シェルターの個体群は新興感染症の監視役になる可能性があるため、アニマルシェルターは異常または重篤な疾患の兆候がないか個体群を監視するべきである。(p64)
Animal population management should be used to reduce the risk of developing novel or emerging pathogens.
動物の個体群管理は、新規または新興の病原体を発症するリスクを軽減するために使用するべきである。(p64)
【のらぬこの解説】
新興感染症もOne Healthの重要なテーマです。新型インフルエンザ、SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)といった、かつて世界中で流行したいわゆる新興感染症は、動物の関与が強く疑われています。つまり動物の間で感染が成立していたような病原体が何らかの原因で人間社会に入り込み、パンデミックにつながったというわけです。そう考えると、様々な出自の動物が集まるアニマルシェルターは、新興感染症のハブになる可能性を持っています。それだけにシェルターの感染症対策は公衆衛生上においても重要といえます。
※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022