譲渡についての考え方

ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)には、こう記載されています。

 

In addition to prioritizing pet retention and reunification, shelters should remove barriers to local outcomes. 

ペットの保持と返還を優先することに加え、シェルターは地域の結果に対する障壁を取り除くべきである。(2.3.2)

 

つまり、アニマルシェルターに収容される動物の数を減らすためには、「保持(預かりボランティアや譲渡のあっせんを含む)」や「返還」によって極力ペットを受入れないことを優先させるべきとしながら、「地域の結果(=地域における譲渡)」を促進すべきとしています。シェルターに入る動物の数を減らし、出ていく動物の数を減らせば、シェルターに収容されている動物の数を減らすことができ、結果的に収容動物の福祉を向上させることができるというわけです。

地域における譲渡の促進策として、「ガイドライン」は次の5つをあげています。(2.3.2)

 

• accessible and convenient open hours

便利で訪問しやすい開所時間

• adoption and reclaim services in languages spoken by the community

譲渡や引取り業務をその地域で用いられる言語で行う

• affordable adoption and reclaim fees

手頃な譲渡や引取り手数料

• adoption and outreach events that reach the entire community

地域全体を対象とした譲渡会や出張イベント

• inclusive adoption policies

包摂的な譲渡方針

 

かつて「便利な譲渡」は「安易な飼育放棄」を招くのではないかという言説がありました。しかしNeidhartとBoyd(2002)の研究により、譲渡後の継続飼養率は「シェルター譲渡」「シェルター外譲渡」「大規模譲渡会」の間で変わらないことが明らかになりました。その他いくつかの研究により、「便利な譲渡」は必ずしも「安易な飼育放棄」を招くわけではないという考え方が主流になりました。「ガイドライン」にもその考え方が反映されていて、地域における譲渡を推進するためには、まず譲り受け希望者にとって便利な体制を整えることが必要とされています。

最後の「包摂的な譲渡方針」については、次回に詳しく述べていきたいと思います。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022