「包摂的な譲渡方針」

ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)では、動物の譲渡についてこう記載されています。

 

Imposing strict policies or requirements on adopters (e.g. employment status, landlord checks, home visits, and veterinary references) is discriminatory, prolongs LOS in the shelter, and prevents future adoptions.

譲渡先に厳しい方針や条件(雇用状況、家主のチェック、家庭訪問、獣医師の紹介など)を課すことは差別的であり、シェルターでの滞在期間を長引かせ、将来の譲渡を妨げる。(2.3.2)

 

かつては動物の譲り受け希望者を厳しく審査し、アニマルシェルターが「間違いない」と判断した人物にのみ譲渡するという、いわゆる「契約譲渡」が当たり前でした。しかし「ガイドライン」によると、それは「差別的」で「譲渡の妨げ」になるといいます。これはどういうことでしょうか。

 

「契約譲渡」から「Open adoption」へ

動物の譲渡についての考え方は、「間違いのない人に動物を託す」ことから、マッチングや面談により「その動物の飼い主としてふさわしいと判断した人に譲渡する」という「Open adoption」の考え方に変わりつつあります。もちろんOpen adoptionの方が、シェルターの負担は重くなります。マッチング自体に時間と手間がかかりますし、譲渡後のフォローアップも必要だからです。

 

包摂的な譲渡

またOpen adoptionは譲渡先に厳しい条件を求めません。その理由は次のように整理されています。

 

・たとえ不完全であっても、家庭での生活はシェルターでの生活よりもましである。

・譲渡を断ることで、結果的に保護動物が安楽殺されるようなことがあってはならない。

 

とはいえ、無条件にどのような人にも譲渡するというわけにはいきません。Open adoptionにおいては譲り受け希望者を分別のある「大人」として扱いますが、譲渡前の面談をしっかりと行い、明らかにペット飼育に向かない人や、虐待目的でペットを入手しようとしている人などを見つけていく必要があります。それでも、そういう人に動物を譲渡してしまう可能性もゼロではありません。そのため、Open adoptionには譲渡後のフォローアップが必須とされています。場合によっては、再引取りや再譲渡も必要になるかもしれません。

 

包摂的な譲渡方針と地域のペットケア能力

このように「包摂的な譲渡方針」に基づくOpen adoptionは、シェルターの業務量を増大させますが、保護動物が家庭に入るチャンスも増大させます。しかしOpen adoptionは地域住民への譲渡が前提となります。遠方に譲渡してしまうと、シェルターによるフォローアップの目が届きにくいからです。つまり「地産地消」ではありませんが、譲渡を地域で完結させてしまうことが理想といえます。そのためにはシェルターだけではなく、地域全体のペットケア能力を高めていく必要があります。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022