シェルターはなぜ避妊去勢手術を行うのか

ここまでASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版、以下「ガイドライン」)から、アニマルシェルターに動物を入れないための方策について見てきましたが、最も効果がある方法は、動物の過剰繁殖を防止して「不要」とされる動物の個体数を減らすことです。つまり犬や猫の避妊去勢手術の普及は、シェルターメディスンの「一丁目一番地」といえるのです。

 

シェルターはなぜ避妊去勢手術を行うのか

アニマルシェルターが犬や猫の避妊去勢手術を実施する目的は2つあります。ひとつは、譲渡する動物の繁殖を防止することです。譲渡した保護動物が繁殖してしまっては、シェルターは何をしているかわからなくなるからです。譲渡前の避妊去勢手術が強く推奨されます。「ガイドライン」にはこう記述されています。

 

Many areas of the country continue to deal with pet overpopulation, and it is important for shelters not to exacerbate this problem.

米国内では多くの地域でペットの過剰繁殖が続いており、シェルターがこの問題を悪化させないことが重要である。(7.1)

 

そしてもうひとつは、地域の動物の過剰繁殖を防止し、シェルターで保護すべき動物の個体数を減らすことです。「ガイドライン」にはこう記述されています。

 

In order to decrease the local population of animals needing shelter services and improve individual animal health and welfare, shelters routinely sterilize (i.e. spay or neuter) shelter animals, owned pets, and community cats. Robust community spay-neuter programs target pets and free-roaming cats who might not otherwise have been sterilized. This, in turn, supports community animal health, prevents shelter intake, and reduces euthanasia of both adults and unplanned offspring. 

保護を必要とする動物の個体数を減らし、個々の動物の健康と福祉を向上させるために、シェルターは収容動物、ペット、地域の猫の不妊処置(すなわち、避妊または去勢手術)を定期的に実施している。地域の避妊去勢プログラムは、他の方法では不妊処置が行われなかったかもしれないペットや自由生活の猫を対象としている。その結果、地域の動物の健康を支え、シェルターの収容を防ぎ、成獣や予定外の繁殖による子供の安楽殺を減らすことができる。(7.1)

 

アニマルシェルターが実施する避妊去勢プログラムは、自由生活の猫だけではなく、地域のペットも対象にしています。米国の大規模シェルターの中には、ショッピングセンターの駐車場に移動手術室を設け、移動避妊去勢手術を実施しているところもあります。そこまでして避妊去勢プログラムを実施する理由は、ペットの過剰繁殖防止、ひいては動物のシェルターへの流入防止という1点に尽きます。

 

※ Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022