長きにわたり、ASV(シェルター獣医師会)の“Guidelines for Standards of Care in Animal Shelters Second Edition”※1(アニマルシェルターにおけるケアの基準に関するガイドライン第2版)の内容について見てきましたが、ASVはもうひとつ大事なガイドラインを示しています。それは“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”※2(ASVによる避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016;以下「S/Nガイドライン」)です。
避妊去勢プログラムの目的
繰り返しになりますが、避妊去勢手術はシェルターメディスンの重要な分野と位置付けられています。その理由は「S/Nガイドライン」の冒頭に書かれています。
Spay-neuter programs represent a crucial component of community efforts to reduce the sheltering and euthanasia of unwanted and unowned cats and dogs.
避妊去勢プログラムは、不要とされた、もしくは飼い主のいない猫や犬のシェルター収容や安楽殺を減らすための地域社会の取り組みの重要な要素である。(p165L)
避妊去勢プログラムとは何か
避妊去勢プログラムについて、「S/Nガイドライン」ではこう定義されています。
By targeting underserved populations for which spay-neuter services are unlikely to be available or accessible, these programs provide surgical sterilization to animals that are most at risk for contributing to shelter impoundment and euthanasia.
これらのプログラムでは、避妊去勢サービスが利用できない、または利用しにくい人々を対象に、シェルターへの収容や安楽殺の原因となる危険性が最も高い動物に外科的な不妊処置を実施する。(p165R)
本来ペットの繁殖制限は飼い主の責任のもと、必要に応じかかりつけ医のもとで避妊去勢手術を実施するのがあらまほしき姿です。しかしそうでない場合、未処置の動物を放置し繁殖させ放題にすることは、飼い主だけの問題ではなく地域社会全体の生活環境問題につながります。避妊去勢プログラムは、飼い主により繁殖制限が実施されていない、もしくは飼い主がいない動物に対し、無料または低廉で避妊去勢手術を実施する事業であり、多くの場合、慈善事業や補助事業で実施されます。
避妊去勢プログラムの対象
避妊去勢プログラムの対象について、「S/Nガイドライン」にはこう記述されています。
In the United States, these typically include pets from low-income households and community cats (ie, unowned free-roaming cats, including unsocialized feral cats and socialized stray cats).
米国では、低所得世帯のペットやcommunity cats(人馴れしていない野猫や人馴れした迷い猫を含む、飼い主のいない自由生活の猫)※3などが一般的です。(p165R-166L)
※1 Journal of Shelter Medicine and Community Animal Health 2022 -http://dx.doi.org/10.56771/ASVguidelines.2022
※2 JAVMA • Vol 249 • No. 2 • July 15, 2016 -https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/249/2/javma.249.2.165.xml
※3 community catsを直訳すると「地域猫」ですが、日本の「地域猫」とは概念が異なるので注意が必要です。