避妊去勢手術時の輸液

“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”※(ASVによる避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016;以下「S/Nガイドライン」)から、避妊去勢手術時の輸液について見ていきましょう。

 

Fluid therapy 輸液

For those patients at greatest risk of clinically important hypothermia (eg, pediatric, small, frail, and ill patients), consideration should be given to warming the fluids to body temperature prior to administration or the fluid line during administration. 

臨床的に重要な低体温のリスクが最も高い患者(例えば、幼齢、小型、衰弱、および病気の患者)に対しては、投与前に輸液を体温まで温めるか、または投与中に輸液ラインを温めることを考慮すべきである。(p171R)

 

When used, fluids should be administered in accordance with current veterinary medical guidelines for fluid therapy.

輸液を使用する場合は、最新の獣医学的な輸液療法のガイドラインに従って投与すべきである。(p171R)

 

【のらぬこの解説】

外科手術の際には通常輸液が実施されます。その目的は術前の絶飲食による体液量不足の補正や、術野からの水分の蒸発(術中不感蒸泄)の補正です。しかし避妊去勢プログラムにおける犬や猫の避妊去勢手術の際には、基本的に輸液は行いません。その理由は次のとおりです。

 

・犬や猫の避妊去勢手術は基本的に健康な個体に実施する「選択的手術」である

・手術時間が短い(去勢:数分、避妊:10~30分)ため、不感蒸泄が少ない

・「S/Nガイドライン」においては、術前の絶飲を推奨していない(「絶食」の項を参照)

 

ただし術中に出血や漏出液による喪失が増えた場合は、その分を補正する必要があるため、輸液を実施します。そのため、全個体に輸液を実施する必要はありませんが、必要な個体に輸液を実施できる体制を整えておく必要があります。どのような場合に輸液が必要かというと、

 

・明らかに脱水状態の場合

・堕胎や子宮蓄膿症などにより卵巣と子宮を摘出した場合

・出血が多い場合

・手術時間が伸びた場合

 

また輸液は麻酔からの回復を促進する効果があるといわれているため、麻酔後にあえて輸液を行うこともあります。避妊去勢プログラムの場合、通常輸液は皮下投与で行います。皮下輸液はしばしば痛みを伴うため、麻酔中または鎮静中に実施します。

 

※JAVMA • Vol 249 • No. 2 • July 15, 2016 -https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/249/2/javma.249.2.165.xml