麻酔導入剤の投与量 その1

“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”※(ASVによる避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016;以下「S/Nガイドライン」)から、避妊去勢手術時の麻酔導入剤の投与量について見ていきましょう。

 

Accurate dosing of anesthetic agents 麻酔薬の正確な投与量

 

投与量の決定

For example, use of a standard dose of dexmedetomidine for all cats regardless of size is not recommended.

たとえば、体格にかかわらず、すべての猫にデクスメデトミジンを一定量投与することは推奨されない。(p172R)

 

Similarly, administration of drug volumes that only fill the needle hub should be avoided. 

同様に、注射針の針元を満たすだけの量の薬剤を投与することも避けるべきである。(p172R)

(訳注)言い回しが難しいのですが、文脈からは「目分量の投与」を戒めているものと推測されます。

 

However, when using a dose chart, caution should be used for patient weights at both extremes of the range provided (ie, very small and very large patients). 

しかし投与量の早見表を使用する際には、範囲の両極端にある患者の体重(つまり、非常に小さい患者と非常に大きい患者)には注意が必要である。(p172R)

 

【のらぬこの解説】

犬や猫の避妊去勢プログラムの多くはいわゆる「一斉手術」で、一度に多数の手術を行います。そのため、投与する麻酔導入剤の量が一定であればどんなに楽か…という心情は理解できます。しかし麻酔薬は中枢神経作用薬であり、投与量を誤ると生命の危機を招くおそれがありますから、正確に体重を測定し、個体ごとに適切な投与量を決定することが望ましいといえます。

 

とはいえ、個体ごとに体重から投与量を計算するのはかなり手間です。そのため「S/Nガイドライン」では、早見表の使用が容認されています。例えば「○○という薬剤は1~2kgの個体には0.2ml、2~4kgの個体には0.3ml」といった具合に、ざっくりとした投与量の早見表を作成し、手元に貼っておくのです。しかしその場合、体重がちょうど2kgの場合は0.2mlなのか0.3mlなのかという問題が生じますので、注意が必要です(私は0.25mlにしたりしますが)。

人馴れしていない野良猫の場合、体重測定も一苦労です。できるだけ正確に体重を測定する努力が必要ですが、拮抗薬が用意されている薬剤(メデトミジンなど)や、比較的安全な薬剤を選択するといった配慮も、麻酔の安全性を高めます。

 

※JAVMA • Vol 249 • No. 2 • July 15, 2016 -https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/249/2/javma.249.2.165.xml