鎮痛剤と鎮静剤

“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”※(ASVによる避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016;以下「S/Nガイドライン」)から、避妊去勢手術時の鎮痛剤と鎮静剤の投与について見ていきましょう。

 

Administration of analgesics and anxiolytics 鎮痛剤と鎮静剤の投与

Analgesic agents are required for all patients undergoing neutering and should be administered prior to the initial surgical incision. 

鎮痛剤は不妊手術を受けるすべての患者に必要であり、最初の外科的切開の前に投与されるべきである。(p173L)

 

Use and timing of NSAID administration should be based on the specific drug and individual patient. 

NSAIDの使用と投与のタイミングは、特定の薬剤と個々の患者に基づくべきである。(p173L)

 

In particular, consideration should be given to patient hydration status and the presence of preexisting hepatic, renal, or gastrointestinal disease or clotting abnormalities. 

特に患者の脱水状態や、既存の肝疾患、腎疾患、胃腸疾患、血液凝固異常の有無を考慮すべきである。(p173L)

 

Administration of NSAIDs to patients that are clinically or subclinically dehydrated should be avoided owing to the increased risk of adverse effects, including nephrotoxicosis.

臨床的または潜在的に脱水状態にある患者へのNSAIDsの投与は、腎毒性を含む副作用のリスクが増大するため、避けるべきである。(p173L)

 

【のらぬこの解説】

避妊去勢手術は切開を伴うので、当然痛みを伴います。そのため手術時には鎮痛剤の投与が必要です。手術時の鎮痛剤投与の原則は「先取り鎮痛」と「マルチモーダル鎮痛」です(余談ですが、獣医師国家試験によく出題されます)。「先取り鎮痛」とは、手術の前(つまり痛みが生じる前)に鎮痛剤を投与することです。「マルチモーダル鎮痛」とは、作用機序の異なる鎮痛剤を併用することで、それぞれの薬剤の投与量を減らすことができますし、鎮痛効果の増大も期待できます。

 

鎮痛剤には「オピオイド」(ブトルファノールなど)、「α2アドレナリン受容体作動薬」(メデトミジンなど)、「NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)」(メロキシカムなど)などがあり、通常それらを組み合わせて使用します。

 

鎮静剤にはいわゆる精神安定薬(アセプロマジン、ミダゾラム、ジアゼパムなど)やα2アドレナリン受容体作動薬(メデトミジンなど)が用いられます。これらは鎮痛剤と併用できますし、メデトミジンなどは両方の作用を持ちます。

 

※JAVMA • Vol 249 • No. 2 • July 15, 2016 -https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/249/2/javma.249.2.165.xml