吸入麻酔薬による麻酔の導入と維持 その2

“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”※(ASVによる避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016;以下「S/Nガイドライン」)から、避妊去勢手術時の吸入麻酔薬による麻酔の導入と維持について見ています。

 

Induction and maintenance of anesthesia with inhalant anesthetics 吸入麻酔薬による麻酔の導入と維持 ※続き

 

Mask induction マスク導入

Mask induction should not be performed routinely and should be avoided because loss of consciousness is poorly controlled and patients experience a relatively higher degree of stress during this method of induction, compared with stress associated with anesthetic induction using injectable agents.

マスク導入は、意識消失のコントロールが不十分であり、注射剤を用いた麻酔導入に伴うストレスと比較して、この導入法では患者が比較的高いストレスを感じるため、日常的に行うべきではなく、避けるべきである。(p173R)

 

【のらぬこの解説】

「マスク導入」とはシラフの動物の口にマスクをあてがい、いきなり吸入麻酔薬を投与する方法です。避妊去勢プログラムに限らず、動物の外科手術の際にはあらかじめ注射麻酔薬で導入し、吸入麻酔薬で維持を行うというのが一般的で、いきなり吸入麻酔薬で導入することは推奨されません。吸入麻酔薬だけで麻酔を導入しようとすると高濃度の麻酔ガスが必要で、動物にストレスを与えますし、麻酔薬の漏れによる事故のおそれもあります。要するに何もいいことはありません。

 

Chamber induction チャンバー導入

Clinicians should be aware that chamber induction produces the highest amounts of waste anesthetic gases.

臨床家は、チャンバー導入が最も大量の麻酔ガスを排出することを認識しておくべきである。(p173R)

 

【のらぬこの解説】

チャンバー導入とは、吸入麻酔薬を満たした箱に動物を入れる、または頭部だけを入れることにより麻酔を導入する方法で、前回にも述べたとおり、少なくとも避妊去勢プログラムにおいては厳禁とされています。他に適切な導入法が存在するので、あえてこの方法をとる必要はないということです。ただし注射麻酔が効かない、もしくは筋肉内注射を打てないほど手におえない動物といった極めてまれなケースにおいて最終手段として用いることはありえます。

 

Mask maintenance マスク維持

If mask supplementation becomes frequent or regular, altering the anesthetic protocol to reduce the need for it should be considered.

マスクによる補充が頻繁に、または定期的に行われるようになった場合は、その必要性を減らすために麻酔手順の変更を検討すべきである。(p174L)

 

【のらぬこの解説】

「マスク維持」とは、注射によりすでに麻酔導入済みの動物に気管内チューブを挿管することなく、マスクにより吸入麻酔薬を投与し麻酔を維持する方法です。特に健康な猫に30分以内の麻酔をかける場合、挿管するよりも安全とされ、多くの避妊去勢プログラムにおいて採用されています。ただし麻酔手順(前投与薬の種類や量など)の工夫により、マスク維持を最小限に抑える工夫はすべきです。

 

※JAVMA • Vol 249 • No. 2 • July 15, 2016 -https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/249/2/javma.249.2.165.xml