皮膚の毛刈りと消毒

“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”※(ASVによる避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016;以下「S/Nガイドライン」)から、避妊去勢手術前の患者の準備について見ています。

 

Patient preparation 患者の準備 ※続き

 

Skin 皮膚

Preparation of the skin should be performed in a manner that preserves skin integrity. 

皮膚の準備は、皮膚の完全性を維持する方法で行うべきである。(p174R)

 

The prepared area should be large enough to prevent inadvertent contamination of the sterile surgical field and to accommodate extension of the incision if necessary. 

準備する場所は、殺菌済みの術野を不用意に汚染しないように、また必要に応じて切開の延長ができるように十分な広さをとるべきである。(p174R-175L)

 

After hair removal, the entire skin area should be prepared with an appropriate surgical scrub agent used according to accepted patient preparation practices.

毛刈りの後、一般的な患者準備の方法に従い、適切な外科用洗浄剤で皮膚全体を準備すべきである。(p175L)

 

【のらぬこの解説】

「皮膚の完全性」が保たれた状態とは、皮膚本来の微生物バリアが有効な状態を指します。何でもいいから術野をきれいにすればいいというものではありません。特にかつて行われていたカミソリによる剃毛は、皮膚に細かい傷をつけてしまい感染の危険性を高めるとされ、今では行われません(ここは獣医師国家試験によく出題されます)。そのため、バリカンによる毛刈りのみを行います。

切開予定の位置よりも広い範囲を毛刈りします。特にメスの避妊手術の際は、子宮の状態によってさらに大きく切開せざるを得ない場合もありますので、余裕をもって毛刈りします。オスの場合は陰嚢とその周辺を毛刈りします。

毛刈りしたら、定法により術野を消毒します。「S/Nガイドライン」では具体的な方法は指示されていませんが、一般的には「ポピドンヨード」「クロルヘキシジン」「アルコール」を組み合わせて使います。なぜならそれらには一長一短があるからです。つまり、

 

・ポビドンヨードは様々な微生物に効果があるが、残存効果は比較的少なく、速効性がない。また有機物の影響を受けやすい。

・クロルヘキシジンは残存効果が高く、有機物の影響を受けにくい。しかし速効性がない。

・アルコールは速効性だが、残存効果がない。また引火性がある。

 

※JAVMA • Vol 249 • No. 2 • July 15, 2016 -https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/249/2/javma.249.2.165.xml