避妊手術の手順

“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”※(ASVによる避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016;以下「S/Nガイドライン」)から、避妊去勢手術の手順について見ています。

 

Surgical procedures 手術の手順 ※続き

 

Ovariohysterectomy and ovariectomy 卵巣子宮全摘出術および卵巣摘出術

When ventral abdominal or paramedian incisions are used, closure must incorporate the external rectus fascia.

正中切開または傍正中切開を使用する場合、外直筋鞘を組み込んで閉鎖しなければならない。(p175R)

 

When flank incisions are used, closure must incorporate the transversus abdominus and internal and external abdominal oblique muscles.

脇腹切開を使用する場合、腹横筋と内腹斜筋と外腹斜筋を組み込んで閉鎖しなければならない。(p175R)

 

【のらぬこの解説】

メスの犬や猫の避妊手術の場合、卵巣子宮全摘出術と卵巣摘出術のどちらを採用するかは、執刀医の判断に委ねられます。一般的に日米では前者が、欧州では後者が主流といわれていますが、両方の卵巣が確実に摘出されるのであればどちらが良い悪いというわけではなく、執刀医が慣れている方法で実施されます。ただし私の個人的見解ですが、卵巣のみを摘出した際に卵巣組織が残存してしまった場合、組織が増殖し卵巣機能が復活するおそれがあるので、「過剰繁殖防止」という避妊手術の目的を鑑みると、卵巣子宮全摘出術が望ましいと考えます。

腹部の切開は正中切開を基本とします。授乳中など特別な事情がある場合には脇腹の切開も行われると文献には書かれていますが、あまり見る機会がありません。

 

Spaying pregnant cats and dogs 妊娠中の犬や猫の避妊手術

When spaying pregnant cats and dogs, fetal euthanasia is not necessary to ensure humane death. 

妊娠中の犬や猫の避妊手術の際、胎子の人道的安楽殺は必要ない。(p175R)

 

【のらぬこの解説】

避妊去勢プログラム、特に野良猫の一斉手術の際には、妊娠中であっても避妊手術(つまり堕胎)を実施します。次のチャンスが訪れる保証はないからです。胎子には意識がありませんから、胎子が入ったままの子宮を傷つけずに摘出している限り、胎子の安楽殺処置は必要ありません。しかし妊娠末期の胎子を子宮から取り出してしまうと意識が生じる可能性がありますので、そのまま新生子として保護するか安楽殺するかの判断が迫られます。このあたりについては“AVMA Guidelines for the Euthanasia of Animals: 2020 Edition”を参照してください。

 

※JAVMA • Vol 249 • No. 2 • July 15, 2016 -https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/249/2/javma.249.2.165.xml