手術済動物の識別措置 その1

“The Association of Shelter Veterinarians’ 2016 Veterinary Medical Care Guidelines for Spay-Neuter Programs”※(ASVによる避妊去勢プログラムにおける獣医療ガイドライン2016;以下「S/Nガイドライン」)から、避妊去勢手術済の動物の識別措置について見ていきましょう。

 

Identification of neutered animals 手術済動物の識別措置

 

Each spay-neuter program should choose a consistent, permanent means of visually identifying animals that have been neutered. 

各避妊去勢手術プログラムは、手術を受けた動物を視覚的に識別するための一貫した恒久的な手段を選択すべきである。(p176R)

 

【のらぬこの解説】

避妊去勢手術は手術ミスがない限り、生涯に1度限りの手術です。手術済みであれば、再度手術する必要は理論上ありえません。オスの場合、去勢済みかどうかは陰嚢を見ればわかりますが、メスの場合、避妊手術済みであるかどうかは、極端に言えば開腹してみなければわかりません。開腹してみて、やっぱり避妊手術済みであることが判明したとしたら、動物に余計な麻酔と切開による負担をかけただけになります。

そのため避妊去勢手術済みであることがわかる、共通したサインを手術済み動物に記す必要があります。そのサインはだれが見てもそれとわかるものでなければなりませんし、消えたり脱落したりしないものでなければなりません。「S/Nガイドライン」で推奨されている識別方法は次のとおりです。

 

ペットの場合

切開部またはその近くに1本線の緑色のタトゥー(simple green linear tattoo)を入れます。手術後に毛が生えてくると見えづらくなりますが、ペットであれば無麻酔の状態で腹部の毛をかき分けて確認することができるはずです。ペットの場合、極端に見た目が変わる識別手段は難しいので、この方法がとられたものと考えられます。

 

野良猫(community cats)の場合

耳の先端をカットする方法は、避妊去勢手術実施済みの猫を示すサインとして国際的に認知されています。ただし地域によってその作法は異なります。米国や英国では、耳たぶの先端3分の1をカットする“ear-tipping”が主流で、「S/Nガイドライン」においてもこの方法が推奨されています。日本でよく実施されるV字カット(ear notching)は「S/Nガイドライン」においては「推奨されない」とされています。けんかの傷と区別しづらいというのがその理由ですが、しっかりとカットすればそんなこともないと思うのですが。まあそこは文化の違いなので、流しておいてもよいでしょう。なお野良猫の場合、耳カットとタトゥーの併用も可能です。

 

その他の識別手段

「S/Nガイドライン」はその他の手段(例えばマイクロチップ)による識別措置を否定してはいませんが、あくまでも前述の標準的な方法を推奨しています。

 

※JAVMA • Vol 249 • No. 2 • July 15, 2016 -https://avmajournals.avma.org/view/journals/javma/249/2/javma.249.2.165.xml